なほとか通信 2017 Boss Blog

第3回 平敷兼七ギャラリー

ちょっと行ってくる!と言う感じの距離にないので、長い間行けずにいた平敷兼七ギャラリーにようやく行ってきた。

「今お茶出すからゆっくりしていって」とベニヤ張りの背の低い壁で隔てられた隣の美容室から声が聞こえてくる。しばらくすると接客の手が一段落したのか人懐っこそうな笑顔を見せて一人の女性が現れた。まぎれもなく写真家平敷兼七さんの娘の當間七海さんである。父の名前から一字をとったのだろう七つの海と書く。あとでお茶を運んできていただいた年配の方が平敷さんの奥さんなのだろうか?¥500円を入り口で払って中に入る。

昨年放送されたNHK日曜美術館「沖縄 見つめて愛して写真家・平敷兼七」の中で、写真家石川竜一は平敷兼七が撮った沖縄の風景をたどる旅をした。同じころこの場所で平敷兼七と石川竜一の二人展「沖縄人人」が開催された。

NHK日曜美術館
http://www.nhk.or.jp/nichibi-blog/400/247190.htmlより

石川竜一が好きで偶然平敷さんを知ることになったのだが、知れば知るほど平敷さんという写真家に惹かれていく。そして平敷さんに惹かれる石川のことが理解できるような気がする。

慣れないワーゲンビートルのレンタカーのスマホサイズのナビに戸惑いながら住宅街をすり抜けまた国道に出たりと行ったり来たり、どうも迷ってしまった。近所の人が心配して声をかけてくれたのでようやくたどり着いたが、開館は朝の9時!まだ1時間もある。どうにもこうにも仕方がないのでコンビニで朝ごはんでも食べて待っていることにした。近くのファミリーマートに入ってなるべく珍しいものはないかと探してしまうのが旅人根性で「ぐしけんパン」のデニッシュパンを思い切ってチョイスした。King’sのロゴデザインが潔い。「菓子生地の上にデニッシュ生地をのせ甘いクリームをサンドしてある」とあるが文字通りたいそう甘い。

奥に見えるのが平敷兼七ギャラリーで手前の入り口から入れば當間さんが一人で切り盛りする美容室「Anny」になる。目の前の国道58号線はちょうど朝のラッシュの真最中である。

自宅を改造して作ったというようにギャラリーはいくつかの部屋の扉をとっぱらってしまったような作りで、もとは何らかの部屋だったものに今では新しい役目を与えている。現在は遺作集「父ちゃんは写真家」発売記念写真展が開催されている。

平敷さんが撮った沖縄の人の姿が沖縄の風景の中に色をひそめて写っている。今では刊行されたたった一つの写真集「山羊の肺」はずいぶん高価で取引されていることが多いが、ここに来ればいつまでも時間をかけて平敷さんの写真の世界に浸ることが出来る。
「まだ子供だったのでほとんど理解していなかった父の仕事をもっとたくさんの人に見てもらいたい」という娘の想いと、「父を訪ねてやってきてくれるたくさんの人たちの拠り所を作りたい」という皆さんの思いが詰まったギャラリーで遺作展を出来ることになったこの上ない喜びのようなものがここには満ちている。隣からは七海さんとお客さんとの沖縄訛りのやり取りが聞こえてきて、いつまでも座っていてもいいような豊かな時間が流れている。
平敷さんの写真の中に見え隠れする平敷さん自身の人間力みたいなものが僕達に伝わって、僕達を過去と現在、沖縄から世界につないでいるのだろうか?沖縄に来る新しい目的がまた一つ出来たようだ。

ギャラリーの片隅ににこやかにほほえんでいる平敷さんの写真が飾ってあってそのあたりからどうもいい感じの空気が流れだしているようである。

平敷兼七ギャラリーへは那覇空港からレンタカーで向かってください。ゆっくり沖縄の街並みを見ながらでも30分から45分もあればギャラリーには着きます。駐車場は2~3台は停められるが美容室とも共同なので詳しくは事前に連絡してからお伺いください。

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