なほとか通信 2017 Boss Blog

第19回 志賀理江子 個展「ブラインドデート」 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

丸亀駅のすぐそばに独特な風貌の建物が見える。現代美術の先駆者である猪熊弦一郎ゆかりの丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(愛称MIMOCA)である。約2万点にも及ぶ猪熊氏の作品を収蔵、展示するとともに現代美術の企画展を定期的に開催している。今回は「志賀理江子 ブラインド デート」である。

「2009年夏、バンコクにいた。・・・」から始まる展覧会の序文が黒い文字で書かれていて、盲目のカップルの写真がただ1点だけ白い壁に張り付けられている。発売されている写真集を事前に見ていたので、おおかたの予想は出来ていたのだがほぼほぼあっさりと裏切られてしまった。会場への入り口である暗幕をくぐり志賀理江子が仕掛ける圧倒的な世界観が繰り出す仕掛け世界を抜け出すまで、随分と時間がかかったように感じた。暗闇と言う特殊な状況がそう感じさせたのかもしれない。

会場に入ると天井照明が一切使われていないのだが真っ暗と言うほどではない。21台のスライドプロジェクターが一定の間隔で明滅を繰り返している。プロジェクターの作り出す明かりが空間をしばらく明るくして、同時に一つの写真を写し出していく。そしてしばらくののちに消えていく。一つの写真をじっくりと見詰める猶予はなく、無機質な機械音とともに容赦なく消えていく。写真だけではなくただ赤い色のみが映し出されるスライドもある。志賀本人が身ごもった時に撮られた胎児の心音が会場に響く。ただ目が慣れてくるにしたがって、その空間がいかに大きな一括りの展示だということがわかる。

美術手帳2017年9月号twitterより

大きな白い壁のトンネルをくぐると今度は全く別の展示になる。最新の「Blind Date」である。大判のプリントがそのまま白い壁に張り付けられており、そのすべてにはおのおのマイクスタンドのようなものでスポットライトが当てられている。そのスポットの当てられる場所がすべていびつで、そこではないどこかに当てられているようで不響和音的な印象を与える。またぴったりと当てられているものもあり、これも細かい演出なのだろうか?

バイクにまたがったタイの若者が美しい。バイクで疾走しているはずの二人の動きを見事にとらえている。並走しながら撮られている為か、その動きはぴったりと固定したままフレームに収められていてポートレイトの様でもある。動いているのに動いていない。生きているのに生きていないかのような何処となくなまめかしい表情に惑わされる。二つの展示はまるで違うようで実は響きあっていて、何度か行き来しているとその様相がはっきりと理解できるのである。

美術手帳9月号の特集の中で志賀はこう語っている。
(前略)
- 作品が生まれる過程で、またその後で「なぜ」に向き合うことも大事だなあと思います。もっともっと感覚的に、例えば、言葉でない領域、写真には写らないもの、自分では不確かかもしれないと思えることを何らかの方法でもっと実行してみようと思うようになった。 - (後略)

実験的な今回の写真集もおおがかりな今回の展示も、志賀にとっては一つの方法論である。ゆすぶりひもといてさらけだしてなおさらその先にこぼれ出てくる作品本来のもつもっと別の領域を引きずり出そうとする作品への取り組み方。思わず出る感想の言葉も手放しでは容認できないほどの緊張感がある。ストイックなまでの志賀の作品に対する向き合いかたが見る者に強いる緊張感のようなものがあるのかもしれない。

美術館の奥の方に志賀さん持ち込みの本が置かれていて自由に見たり読んだりすることが出来る。さあまた現実に戻ろう。

丸亀市を歩いてみると実にコンパクトに町が形成されていることに気が付く。この地図の中央が丸亀駅で赤線をたどると丸亀城に、オレンジの線をたどると港に着く。官公庁舎も学校も町の構成要素のほぼすべてがこの辺りに凝縮されている。丸亀には名物の骨付き鳥のお店があるし、丸亀うちわも有名なのでぜひ泊まりがけでお越しください。

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