なほとか通信 2015 Boss Blog

第二回 本の旅

何度か同じようなことを聞くだけでたいがいの人はもうみんなやっていると思ってしまうのだ。みんな持っている、みんなそう言っているという風になってしまう。全く節操が無くて性質が悪い。たまたま東京の方で気になっていた写真家の写真展が行われていたので同じ頃に何かやっていないかと探していると、ちょっと気になる展覧会と洋書セールがやっていたので、これはもうみんな行っているような気分になってしまった。

以前に電話で本のやり取りをする内にすっかり気に入ってしまった代官山の蔦谷書店に一度行ってみたかった。代官山T-SITEと名付けられた一連のTの字をモチーフにした建物群で構成された蔦谷書店は、全国にあるTSUTAYAの店舗とは少し違うように見えた。「次世代の蔦谷書店を作る」という命題のもとに生まれた「本。映画、音楽を通してライフスタイルを提案すること」を中心に考えられた店舗の最新形でありたいと広報誌には書いてある。


(画像はTSUTAYAさんのHPより掲載させていただきました)

Tポイントで有名なあのTの字をモチーフにした外観のブロックもそうだが、店内に入ると本の多さにもびっくりするのである。そしてその配置にも特徴があって、興味が興味を引いてゆくような物の並べられ方、ちょうどネットサーフィンをしているような感じで本や雑誌が並べられている。文学からビジネス書、デザイン・建築、料理や旅行などの書籍が独特のカテゴリーで配置されている1階とCDやDVDのレンタルと販売を行う2Fがある。1Fにはスターバックスと大人コンビニと名付けられたファミマがある。1号館1Fにある本のアーチをくぐって入ると天井まで届く本棚が魅力的な小部屋がある。人文の小部屋と呼ばれる3つの小部屋にはそれぞれ、思想、哲学、心理学の小部屋と世界史、日本史、江戸文化、着物、歌舞伎などの歴史部屋、それとSFと科学の小部屋になっていて本をめくっているだけで一日遊べそうな場所である。

11時になったのでイベントスペースに行ってみるともう洋書のバーゲンセールが始まっていた。何の情報もなかったのでそんなに期待はしていなかったのだが、実際には目を見張るような内容だった。ほとんどの書籍が50パーセントから80%の値引きをされており、ROBERT FRANKやLEE FLIEDLANDERなどの写真集が無造作にワゴンに放り込まれている。ほーっと思いながら2、3冊めぼしいものを見つけて送ってもらった。¥3000の本でも8割引きだと¥600になる。

代官山から東急東横線とメトロ銀座線を乗り継いで日本橋を目指した。銀座で用もあるのだがと思ったがとりあえず日本橋に急いだ。日本橋高島屋の8Fまでエスカレーターで上がってくるとひときわにぎやかな場所に出た、最後尾の文字にもしやと思いながらも案の定長蛇の列だった。全国の高島屋を回っていいた「生誕130年記念 川瀬巴水」展に来たのだ。

最近TVの番組で巴水を知ったのだが、巴水の生涯の制作点数もかなりの数になると言うがここにある展示点数の多さとさらには会場の人の多さにもっとびっくりしたのだ。ほぼ3重にうねりながら会場を進んでいく人の波に流されながら、ゆっくり見るべき物さえもどこにあるのかという状態で早急に退散してきた。

銀座に戻ってきた。中央通りは歩行者天国になっているが喧騒もなく静かな土曜日の午後といった感じだった。とりあえず2時を回っていたのでとんかつ屋でお腹を満たし銀座を歩いた。ライカギャラリーがどこにあるのかがわからない。何度か迷いながらようやくあの特徴的なLeicaのロゴを見つけた。

日本で唯一のライカの直営店は銀座の裏通りにある。2Fのサロンには小さな展示スペースがあり、今は「Black Rain」アントワン・ダガタ展が行われている。ほんの14点ほどの写真からはダガタのメッセージが何なのかはわからないが、彼の抱えている何かを伝えているのかもしれない。そこで買える写真集を聞いて「YAMA」を買って帰ろうとすると。MAGNAMと名札に書かれた人物に話しかけられた。「もう少しすると本人がここにやってくるので待ってもらえますか」と言われたので何の事かと思って聞くと、その日は2日間あるサイン会の最終日だと言うのである。しかも開始時間をもうすでに40分ほど経過している。担当者に聞いてみると「昨日もそうだった」と言う。「ホテルはもうすでに30分ほど前に出ているから間違いなく来ると思う」と言うのである。さすが放浪の写真家である。それからしばらくして現れたダガタと何度か熱い握手を交わして写真集にサインを書いてもらった。そしてきっちり写真まで撮ってもらった。MAGNAMの担当者は必然と僕の通訳となり、面倒な質問を問いかける役になった。「写真はやるのかと」と聞かれたので「写真が好きなだけ」と訳してくれと伝えた。ダガタは笑っていた。

ダガタの写真を理解することは難しいと思う。ただ好きになったのだ。熱量という表現の仕方があるのならそれがちょうど当てはまると思う。

東京日帰り旅の最後に神田にやってきた。土地勘がないので東京メトロ銀座線 神田駅で降りると神保町ははるかに先にあった。歩いた。巴水展の目録とダガタの写真集ではそんなに重くはなかった。東京をただ本を探して歩くという旅もなかなか面白いものだと思った。神保町の駅の近くに夏目書房 神保町ボヘミアンギルドという一風変わった古書店がある。美術関係の本の取り揃えが多く、2Fにはたくさんのリトグラフや肉筆画などがあり、とりわけ竹久夢二の作品を多く取りそろえている。今日の目的はもうすでに半年ほど探し回っているROBERT FLANKの「Lines of My Hand」を購入すること。表紙カバーもすでに破れかけだったが、その表紙を本棚の一番下の段で見つけるとその圧倒的な存在感は変わらなかった。そしてその内容もそうだった。非常に端正に切り取られたフレームの中には、登場人物たちのバックボーンや街のざわめきのようなものがあふれ出しているような気がする。
また一つ本が増えてぎりぎりと食い込むビニール袋を握りしめて帰路に就くのだが、そんなに苦にならないかと思ってまた次の駅まで歩いた。

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