なほとか通信 2015 Boss Blog

第六回 山崎にもない山崎

今や山崎蒸留所にもウィスキー山崎は売っていないという状況になっている。ここ数年のハイボールブームに追い打ちをかけたNHK連続テレビ小説「マッサン」の放送は、今や空前の国産ウィスキーブームを作り上げている。この先もっといえば世界を巻き込んだムーブメントにならないとも限らない。

久しぶりに昼間に時間がとれたので、半日好きに遊んでもいいと言う体で、今一番どこに行きたいか考えてみた。すぐさまサントリー山崎蒸留所のお客様センターに電話をして山崎の12年があるか聞いてみた。電話口で大変声の小さな人が対応してくれる。「現在1本はありますが、お取り置きは出来ません」「まあ無くてもいいか!」という感じで大阪から30分。山崎に向かった。

サントリー山崎蒸留所内にはウィスキー館と呼ばれる歴史館がある。以前勤めていた会社で内部の装飾にかかわった縁もあって、時々懐かしくてここにやってくる。しかし本日はもう少し状況は深刻だ。お酒の量販店の棚から忽然と消えてしまった山崎12年は、今や一部の百貨店で少量の取引がなされるだけになってしまった。ネット通販はもっと盛り上がっていて今や一本一万円を軽く超える価格帯で取り引きされているのだ。さらに「マッサン」のつくった「ニッカ」にいたってはもっと深刻で親会社アサヒの通販サイトでも在庫なしのままである。

ようやく辿り着いたファクトリーショップの人だかりの一番奥、棚の一番下に山崎12年は神々しいまでのスポットライトを浴びて1本だけぽつんと置かれてあった。日頃の行いが認められたのか運に恵まれたのか本日残り1本限りの山崎12年を抱えて、そこまでしなければならないのか?大人げないぞ!という内なる声を聞きながら、何となくうれしい半面、後味の悪い気分になる。

ショップを後にして同じ建屋の下の階にやってくると有料試飲コーナーがある。国産外国産含めてサントリーが扱うウィスキーのかなり多くのグレードを味わうことが出来る他、「響」「山崎」「白州」の樽の違いやビンテージの違いを味わうことが出来る。今日はミズナラ樽の山崎12年とミズナラ樽の響17年を試飲した。うまく表現は出来ないのだが響17年の懐の広い味わいと喉元に広がるふくよかな香りは山崎を圧倒していた。しかし山崎12年の親密感はそれにはなくて、とても懐かしい友人からの電話のようにとてもすがすがしい気分になる。

ずいぶんと気持ちよくなったのでお土産を抱えて帰ろう。山崎蒸留所にはもうほとんど出回らなくなった山崎10年もあるので、友人の分も買ってから蒸留所を後にした。帰り道、今日は違う道を帰ろうと思い歩いていると、離宮八幡宮という神社がひっそり建ってあった。門の横に建ってある由緒書きを読んでいるとなんとここがじつは石清水八幡宮の元社であると書いてあって、とてつもなくびっくりしたのである。山崎という土地が石清水のわき出る場所だと昔から誰もが知っていたという事実に他ならない。

街は歩いてみないとわからない。ウィスキーも飲んでみないとわからないのである。

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