なほとか通信 2016 Boss Blog

第15回  境界侵犯 インベカヲリ

じっくりと着実に仕事を続けることは難しい。26歳で写真の世界に独り立ちして10年、インベカヲリのフィールドワークは着実に広がり、その才能は幅広い分野で認められている。最近ではスガシカオのアルバム「THE LAST」のアートディレクションとジャケット写真を担当し、ライターとしても「声優のアイコ」事件を追った新潮45に寄稿している。「取り扱い注意な女たち」や「ノーモア立川明日香」など写真とともに文章を受け持つことが多いルポライターという一面も見せている。

インベは言う「人生は自分を主人公とした物語だ。他の誰でもない被写体一人ひとりのストーリーに触発されて、私は写真を撮っている。」
そうして撮られた一見エキセントリックに見える写真たちは特別な意味を持ったタイトルとともに彼女のウェブサイトのPhoto Galleryに並んでいる。

インベカヲリPhoto Gallery
http://www.inbekawori.com/photo/frame.htm

会場では版元である赤々舎にももう少ししかない写真集「やっぱ月帰るわ、私」が売り切れと書いてサンプル本だけおいてある。あとがきに

あらゆる感情のなかでも、私は「怒り」の感情に生命力を感じるから、被写体から鋭い視線を引き出して撮りたくなる。劣等感や悲しみや絶望など、人生に抑揚をつける感情の根源にあるのは「怒り」だと思うし、自分自身に向けられる怒りの中には、外部からの抑圧、たとえば世間の常識や家庭環境や男性優位な社会や生まれた時代など、様々な抑圧に対する怒りが秘められている。怒りは主張だから、そうした言葉以外で見えてくる発言を撮りたくなる。
人間とは、その人のもつエネルギーのことだから、顔や体を超えた先にある魂を写したい。

インベはジャーナリストのような目で対象を見てカウンセラーのようなまなざしで心を紐解く。そして写真家としてしっかりとした写真を撮っている。じっくりと着実に彼女の仕事はこれからも続いていくだろう。

親交のあるスガシカオさんが今回の展示会に寄せて「プンプンと匂い立つオリジナリティはそのままに、被写体の年齢層がぐっと下がった作品が多く、また新たなインベワールドが炸裂してました。。。」とつづっている。

恵比寿のAmerika-Bashi Gallery 通称ABGはなかなかたどり着けないところにあります。会期は10月10日まで。

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