なほとか通信 2017 Boss Blog

第2回 任航 死す

中国のフォトグラファーで詩人の任航(Ren Hang)が2月24日に北京で死去した。享年29歳、早逝の原因は抑うつ症による飛び降り自殺だったと複数のメディアは報じている。限られた人たち(家族と友人たち)で運営されていたスタジオは主がいなくなったことで一時的にすべての作業を停止した。限りなく続く深い悲しみとありあまるほどの当惑の連鎖はとてつもなく熱の無い黒色の闇となって世界中を一瞬の内にかけ抜けてじわじわと取り込んでいった。彼とともに仕事をした様々な分野の関係者達は残らず哀悼のコメントを自身のブランドのサイトやニュースペーパーに自主的に掲載し、彼の写真に共感していた世界中の人々はSNSやブログなどに様々な形で驚きと悲しみを自らの言葉で伝えている。世界中の新刊書店ではレンハン関連の書籍が残らずOut of stockになった。小さな市井の中古書店にまでも関連書籍の在庫確認の電話やメールが押し寄せた。運よく世界のどこかのネットショップに書籍を見つけられた場合であってもそのプライスは常識の範囲を大きく超えて高騰していておいそれと手が付けられない。様々な憶測とありえないような噂話、英雄死を助長する投稿などの様々な記述、批評、彼の写真論、彼の人間論。様々な昔話。計り知れないほどの喪失感とわかりきった現実。これから発表を予定していたたくさんのプロジェクトと開催中の2つの個展、数多あるプリントの制作依頼、愛する家族とモデルとなった友人、愛する人のすべてをおいて彼は旅立ってしまった。おいて行かれたのは僕も同じだ。今は誰かの声に耳を傾けながら次に僕は何を言えばいいかを探している。ずっと探している。きっと近い内に探せるのかもしれない。そうでなくても、そうでなくてもいいのかもしれないのだが・・・。
今は深く任航の死に哀悼をこめて祈る。愛と感謝しか今はない。

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