なほとか通信 2020 Boss Blog

第3回 インベカヲリ☆写真展-恵比寿 アメリカ橋ギャラリー

新しい写真展を開催するたびにいくつかの世界や何処かしらの場所をセンセーショナルな事件に巻き込んできた写真家インベカヲリ☆だが、2018年は「理想の猫じゃない」「ふわふわの隙間」とおのおのフィルムとデジタルと制作手法の異なる別の展示を開催、年末にはそのどちらもが写真集となり、さらには展示に対していくつかの受賞があり、それに伴う受賞展が東京や大阪で立て続けに開催された。2019年一杯までの彼女の活動は非常に旺盛であった。JR中野駅ガード下ギャラリーのゲリラ的な展示などいくつかの展示には行けなかったが今回は恵比寿のABGまでやってきた。

もうすでに30分ほどただ単に座っている。インベカヲリ☆写真展とだけ書いてあるのでタイトルはないのだろう。作家が在廊していないときはほとんど誰もいないというのがアメリカ橋ギャラリーのスタイルだが、どこかにある監視カメラにもちゃんと出演しているようにふるまったのは言うまでもない。

明らかに不協和音がどこからともなくするのだが、サイズ感がいいのか誰もいないからか妙に落ち着いているように感じる。何がそうさせているのかはわからないが、二つのタイトルが混在しているせいか、フィルムとデジタルが混在しているせいか、フレームがあるものとないものがあるのからか、もともと予定調和を好まない者たちが共生しているせいかもしれない。実に手慣れた調教師のようだが彼女の場合はもっと丁寧で冷静だ。

電気のついた倉庫の中に入り込んで外から鍵を掛けられてしまったかのようないたたまれない気持ちにも似ているのかもしれない。もともと休みなので誰か用がない限りは今日は誰も来ないという設定くらいのどっしりとした放置プレーと言えなくもない。静かだ。

最近出来るだけ文章と写真を別個に考えて作品を鑑賞しようとしている。文章に引っ張られる作品とそうでもないものをできるだけ均等にしたいと思うからだ。写真はそもそもタイトルも無い場合のほうが多いからだ。

ギャラリーについてすぐに声をかけられたので振り返ると雪国の人に出会った。聞くとこころによると、ここにしばらくいて今日そのまま雪国に帰るという。また会えるかな。

第43回伊奈信夫賞を受賞した時の長嶋有里枝さんの推薦文がすごく好きなのでここに掲載させていただきます。出典は赤々舎のサイトからになります。

「理想の猫じゃない」展は、被写体とインベさんが話し合いを重ねて生み出したイメージで構成されていた。被写体の多くは自分が置かれている、どちらかといえば不思議な状況を驚くでもなく喜ぶでもなく、ただ、フレームの中でやるべきことを淡々と遂行している。写真の世界では長らく、クリエイティビティという意味において被写体は写真家の下位に位置づけられてきた。いっぽうで、写真という表現媒体も単なる「記録」とみなされて、アートの下位に位置づけられることがある。インベさんの作品はそのようなヒエラルキーの構造を撹乱し、創造する者とその対象、パフォーマンスする側と記録者のような二極対立的な役割分担では語れない、新しい写真行為の可能性を示唆するもののようにみえる。 
─ 長島有里枝「第43回伊奈信男賞 授賞理由」ニコンイメージングサイトより

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