なほとか通信 vol.2148

「最近の話し。」

葡萄を買っておいたので帰って来るかと言うので、久しぶりに晴れた連休最終日に、それほど遠くもない自身の田舎に少しの時間だけ帰って来た。高くは無いのだけれど滑りやすい山道を頂上まで登って行かねばならない墓参りは、足場が悪いという理由であっさりと諦めて、その代わりに仏壇に線香でもと思い湿りかけのマッチで火を付けていると、この辺りでは線香は逆三角形の山型に3本立てるのだよと、今のこの歳まで知らなかった事実に唖然とする。

さして代わり映えのしない最近の話題と流行りの感染症の情報を確認して、いささか大きすぎる藤稔という葡萄と、この辺りでは有名な豊助饅頭を食べて、庭に出ては百合の話をして、流れの早い川を見てはこんな所でよくまあ一日中遊んでいたななんて考えながら、見たこともない紫陽花の群生にびっくりして、ほとんど代わり映えのしないまさに田舎の風景と、元気だけれど着実に老いてゆく両親と自身の周りの人々にこれから何をして行くのかなんかを考えていると、お腹が痛くなって来た。

藁葺きの屋根をトタン屋根に変えただけの昔風の家の北側にあるトイレに付いている小さな窓から外を見ると、昨夜までの雨で充分に水を含んで膨れ上がっているように見えるほどの年代物の石垣と、生い茂る草木が見える。何やらカサカサと音がする。よく見ると何かいるが、よく見えないのでスマホを取り出して近づいて見ると耳が見えた。うさぎだった。

急いでトイレを出てそろそろ話題のつきそうなテーブルに戻り、うさぎの話をすると次々とそれぞれ携帯やスマホを抱えてトイレに入れ替わり立ち替わりの撮影タイムとなった。そして父の番でうさぎはあまりの騒がしさに嫌気をさしたのかそろそろと山に帰っていった。

帰り際にプチトマトのポットが実をつけたままに放ってあるのが不思議で、これはどうするのと聞いたが、別に理由は無いと言う。田舎では時間がたくさんあるから、時間を持て余している内に必要のないことも別に構わないのだと言う。理解はよくできないが何となく納得して車に乗り込んで別れを告げた。

神戸を目指して走っていたが最初の山を登る頃に、さて何をしに帰って来たのだろうかと思い返していると、葡萄をもらい忘れたことに気がついた。また送ってもらうのも何だしと引き返して見ると、向こうも気がついていたらしく良かった良かったということになる。そしてまた別れを告げた。
という最近の話し。

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