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家を守る屋根

2010年に日本を襲った記録的な夏の猛暑は、列島各地で様々な影響を及ぼしたことは記憶に新しいと思います。熱中症で亡くなられた方は1700人に達し、自然界ではナラなどの広葉樹が病原菌で枯れるナラ枯れの被害が拡大しました。農産物の被害も多数報告され、気象庁はこれを受け30年に一度の異常気象だと発表しました。年が明け2011年は記録的な大雪に見舞われ、多くの家が雪の重みで倒壊しました。さらに3月11日に発生した東関東大震災では、家の倒壊や瓦屋根の崩落の被害を受け、落下した屋根瓦での負傷者も報告されています。猛暑・大雪・地震など過酷な自然環境から家を守ることについて、本気で考えなければならない時代なのかもしれません。家を建てる、今回はますます激しさを増す自然環境から家を守る、屋根について考えてみようと思います。(常深)

屋根材の変遷

まずはじめに、屋根を構成する要素のなかでも重要な位置を占める「屋根材」の変遷を振り返ってみようと思います。屋根材は長い年月をかけ、その土地の気候や文化、世の中の情勢などにあわせて変化をとげてきました。

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瓦の伝来
古来、人々は草や樹皮(檜皮)、板などの自然素材を利用して屋根を作っていましたが、飛鳥時代、百済より仏教と共に瓦葺きの仏教建築が伝来します。当時上層階級の建物の多くは檜皮葺きでしたが、檜皮葺きは20~30年おきに葺きかえなければならなかったこともあり、寺を中心に耐久性の高い瓦葺きへと移行していきました。これに対し神社は、日本古来の伝統を重視して檜皮葺きを続けていたようです。

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桟瓦の誕生
江戸時代、大名屋敷などでは瓦葺きの屋根が増えていましたが、庶民の家では草葺き、板葺きが続いていました。当時の江戸の町は火災が多く、また草葺きや板葺きの民家が密集していたこともあり、広範囲に燃え広がり大惨事になることが多かったようです。1674年西村五郎兵衛正輝が、従来の瓦に比べて軽量で安価な「桟瓦」(現代の瓦の原型)を発明します。これをきっかけに1720年防火を目的として瓦葺きが奨励され、庶民の住宅にも普及していくこととなります。

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多様化する屋根材
明治時代、瓦葺きの屋根が一般的になってきていましたが、大正12年関東大震災で多くの家が倒壊したことをきっかけに、瓦以外にもスレート、セメント、金属といった様々な新しい屋根材の普及が進むこととなりました。アメリカやヨーロッパからも新しい文化が伝わり、平らなコンクリートの陸屋根など今までにない様式も作られるようになりました。

写真:元興寺http://www.koueisangyou.net/
item1.html
写真:住宅展示場 http://www.kawarayane.com/
gekitan/catalog/maruei/ibusi.htm
写真:陸屋根  http://www.azhouse.co.jp/AZ_NEW/
series/ss/ss_exterior.html

参考
・「屋根の歴史」平井聖 著
・「屋根の日本史」原田多加司 著
・「屋根のはなし」山田幸一 監修 石田潤一郎 著

(賀戸)

屋根材の種類

現在、屋根材には多くの種類があります。
ここでは日本の住宅で使用されている主な屋根材の特徴とメリット・デメリットをご紹介します。

粘土瓦

粘土を焼き上げた日本の伝統的な屋根材で、年月とともに味わい深さが出てきます。表面に釉薬が塗られている釉薬瓦と、塗られていない無釉瓦に大別されます。近年ではかたち・色の種類も増え、洋風住宅にも用いられています。

≪かたちの種類≫

写真 釉薬瓦 J形
(和形)
三州瓦
写真 釉薬瓦 S形
(スパニッシュ形)
三州瓦
写真 釉薬瓦 F形
(フラット形)
三州瓦

≪県別出荷枚数比率≫

愛知県の三州産地、島根県の石州産地、兵庫県の淡路産地を瓦の三大産地と呼びます。愛知県の三州産地は全国生産量の約6割を占めています。

Yane_03_shikaku_midori01 一位 愛知県/三州瓦
色・形の種類が豊富で様々なデザインの住宅にあわせやすい。 写真

Yane_03_shikaku_midori01 二位 島根県/石州瓦
赤瓦と呼ばれる独特の赤い瓦が有名。(その他カラーも有り。)
強度に優れ、寒冷地方に適している。

Yane_03_shikaku_midori01 三位 兵庫県淡路島/淡路瓦
淡路瓦の土は「なめ土」と呼ばれ、粒子が細かく美しい仕上がりになると言われている。

(円グラフ:平成17年工業統計表)

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三州瓦 S形

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・高級感がある
・年月とともに味わい深さが出る
・耐火性・防水性・遮音性に優れている

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・比較的価格が高い
・重い
・衝撃により割れる恐れがある

スレート

セメントを高温高圧下で成型した板状の合成スレートに着色を施した屋根材です。
比較的価格が安く、建て売り住宅に多く見られます。

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ケイミュー株式会社
カラーベスト

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・比較的価格が安い
・軽い
・カラーが豊富にある
・施工性・耐久性に優れいている

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・比較的安っぽさを感じる
・吸水性に劣る

金属板

金属板は加工しやすく、曲線や円形といった複雑な形状の屋根にも対応できることから、住宅の他、店舗や大型施設など様々な建物にとり入れられています。古くから和風建築にとり入れられている銅板や、鉄板の表面に塗装を施したカラー鉄板、トタン板(亜鉛鉄板)等様々な種類があります。近年では、耐久性の高いガルバリウム鋼板が人気が高く、建築家の設計する建物に多くとり入れられ、モダンな屋根材として注目されています。

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http://blog.goo.ne.jp/
yukisatoshima/e/
133f9ec980c791802d861a
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・種類によるが比較的価格が安い
・軽い
・屋根の形状に合わせやすい
・耐久性・耐火性・防水性に
 優れている

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・遮音性に劣る
(雨音が気になる)
・耐熱性に劣る
・工業地帯、海岸沿いは塩害により腐食が早まる

参考:こだわりマイホーム
http://sayacafe.sub.jp/home/
roof.php

(賀戸)

屋根の形状

ここでは、日本の住宅で多くみられる屋根の形状と特徴をご紹介します。(角元)

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多くの住宅で見られる一般的な屋根形状です。構造がシンプルであるため、雨漏りしにくく、屋根裏面積も広く取れ、コスト面においても有利ですが、台風などの風圧に若干弱い造りとなっています。

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和風、洋風どちらのデザインにも適した落ち着きのある屋根形状です。切り妻に比べ屋根裏面積が取りにくくコストもかかりますが、構造上頑丈なため、台風などの風圧に対して強く、雨漏りしにくい形状です。

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切り妻と寄棟を組み合わせた和風デザインで、重厚感、高級感があり、格式の高い屋根形状です。構造上複雑な設計である為コストはかかりますが、台風などの風圧に対して強くて頑丈な構造です。

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シャープでモダンなデザインの住宅でよく見られる屋根形状です。構造がシンプルであるため、雨漏りしにくく、屋根裏面積も広く取れ、コスト面においても有利ですが、台風などの風圧に若干弱い造りとなっています。

屋根と法律

屋根の材質や形状を選択する際に考慮しなくてはならない建築基準法の一部をご紹介します。

1. 重い屋根と軽い屋根

木造住宅を建てる場合、屋根材の重量が構造に影響を与えるため、屋根材の重量によって量や柱の太さ、配置のバランスが建築基準法で決められています。重量の大きい瓦より、小さい金属やスレートの方が壁の量が少なくなります。

2. 屋根の勾配

勾配が緩いほど雨水が流れにくく漏水の危険性が高まる為、屋根材には最低勾配が定められています。これは屋根材の葺き方や形が影響しています。屋根の勾配は外観にも大きく影響する為、デザインと合わせて屋根材を選ぶ必要があります。(角元)

屋根材とその最低勾配

粘土瓦 4.0/10
スレート 3.0/10
金属板 1.0/10

※屋根材、メーカーにより差があります。

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3寸勾配の屋根図

屋根の役割の変化

1. 耐熱への備え -新しい工法の紹介-

日差しが強い夏場は屋根裏の温度が上がり、その下にある部屋が非常に暑くなります。耐熱への備えとして断熱効果を持たせる工法をご紹介します。

写真

ケイミュー株式会社による「快適!熱シャット工法」は屋根のベースとなる野地板を2層にすることで屋根面に通気層を設け、そこに遮熱シートを敷き詰めることによって太陽熱を屋根部分で遮熱します。さらに通気層にたまった熱気、屋根裏の湿気や熱気は外部へ排出します。富士スレート株式会社による「エアルーフインシュレーションステム」は瓦屋根材を葺く工法で、断熱材を野地板や防水シートの外側に取り付け、受金具と桟木を用いて断熱施工します。両工法とも夏場の屋根裏温度を低下させ、室内への熱の伝導を低減させることで冷房効率を高め、光熱コストを節減する効果があります。(図:「快適!熱シャット工法」)(角元)

「快適!熱シャット工法」
http://www.kmew.co.jp/shouhin/roof/feature/colorbest/shut.html

「エアルーフインシュレーションシステム」
http://www.fujislate.com/site/services.html?start=1

2. 太陽光発電と屋根

太陽光エネルギーをはじめとした自然エネルギーへの注目は年々高まっています。現代の屋根は「家を守る」だけではなく、太陽光パネルを設置し「エネルギーを生み出す場所」としての役割も担っています。

≪設置方法による太陽光パネルの分類≫

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屋根置き型

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陸屋根型

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屋根材一体型

≪設置条件≫

どんな屋根にも太陽光パネルを設置できるわけではありません。一番重要になってくるのは屋根の強度です。太陽光パネルの重量に耐えられるだけの強度があるかどうか、事前に施工業者等に依頼して調査する必要があります。もし強度に問題がなかったとしても、屋根の形や方角、その地域の環境等により十分な発電量が見込めないと判断された場合は設置できないこともあります。(賀戸)

3. デザインへのアプローチ

最近は施工技術の向上や建材の多様な進化により、これまでは不向きなデザインにも果敢なアプローチがされています。大屋根や陸屋根などの屋根形状を大胆に取り入れたり、和モダンやシンプルモダンなどに対応した外装材を導入するなどして屋根壁一体構造や、簡単な屋根構造に見えながら機能的に採光や換気、居住空間の拡張が出来るような工夫がされているデザインも出てきています。設計は実は外観からと言われる設計士さんが多いということも、これからの屋根を含めた外回りに対するデザインへのアプローチの方向性を語っていることになるでしょう。(常深)

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SXLエス・バイ・エル
http://www.sxl.co.jp/
index.html

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フィアスホーム おうちくらぶ
http://www.ouchiclub.
com/default.htm

提案コーナー 透過型太陽光パネルを採用した大屋根

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(常深)

屋根を科学する

家を建てる、今回は日向の日蔭者 - 屋根を科学する-と題して日頃スポットの当たらない屋根について考えてきましたが、ポイントをまとめてみます。

その1、屋根材の種類によるメリット・デメリットを考える

万能の屋根材は存在しない為、家の規模や周辺環境を考慮して機能性や経済性のいい最善の屋根材を選ぶ。

その2、屋根の形状による特徴を理解する

屋根の形状の特徴を理解して、機能面を損なわない屋根づくりを考える。

その3、付加機能を加える

耐熱性・耐震性などを考慮した新しい工法を取り入れて、変化していく環境へ対応する。

その4、太陽光発電や屋根上緑化のプラットフォームとしての位置づけ

太陽光発電が設置可能かは重要な要素であり、屋根の形状・屋根材による設置時の料金等も含めて事前に検証する。

その5、デザイン性を取り入れる

外観を構成する重要な要素として屋根をとらえ、地域景観にも配慮したデザインを選択する。

一番のポイント 立地の検証

今建てようとしている家がどんな場所にあるかを検証する。降雨の量や質、雪や風および日照などの自然環境、家の向きや海山などに隣接しているかなどの立地環境などを考慮して、何に対して一番重点を置くかで屋根を考えることが重要。

私達が家を建てる場合、まず最初に間取りを決めて次は・・・という感じで屋根はどうしましょうと言う話が出てくる頃には家の基本躯体はほぼ決定していると思います、屋根によって大きく間取りの変更を余儀なくされると言うものではないと思いますが、静かで安全で暮らし良い家を望む時、屋根というものの役割の大きさを忘れないで家の設計を考えてみたいと思います。

編集後記

写真 サイクロイド曲線という言葉をご存じでしょうか?屋根についてあれこれと調べているうちに法隆寺の屋根の曲線がニュートンが説いたサイクロイド曲線と同じだということが判明したと言う記事に出くわしました。ボールをA地点からB地点まで転がす時、真っすぐな板の上を転がすより、ある一定の曲線の方が早く転がるというものです。昔の人たちは屋根に降り注いだ雨水を一番早く流すために、経験を重ねた結果この屋根を設計したということなのかもしれません。いつの時代でも人の暮らしの近くに屋根があることを考えずにはいられない、そんな機会になったと思います。(写真:法隆寺金堂)(常深)

異端の建築再読
http://itan-no-saidoku.at.webry.info/200906/article_1.html

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