菱田雄介 border | korea

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菱田雄介 Yusuke Hishida「border | korea」リブロアルテ/Libro Arte、 2017 年。

菱田さんは 1972年 東京都生まれの写真家、兼映像ディレクターである。1996年 慶應義塾大学経済学部卒業。学生時代から中央アジア・ヨーロッパなどを旅し、卒業後は入社した民放テレビ局で主に報道番組の製作にあたる。2001年 アメリカ同時多発テロを契機に本格的に作家活動を開始。2003年 パレットクラブスクール参加。2004年 個展「3Roads 3Countries ~NY ・ Afghanistan ・ Iraq~」(Gallery Place M/新宿)、「未来ノ瞳 ~Afghanistan ・ Iraq ・ Bhutan~」(Days Photo Gallery/四谷)、2005年 個展「ある日、アフガニスタンで。」(日本女子大学/西生田)、「ある日、」(Gallery Place M/新宿)を開催する。2006年 ロシアのオセチア共和国ベスランで起こった惨劇の痕跡を捉えた「ぼくらの学校 Наша Школа」で、ニコン三木淳奨励賞を受賞。2008年「クナシリ」、2010年「portraits of Pyongyang,portraits of Seoul」でキャノン写真新世紀佳作を受賞する。その後も 2012年「border/McD」(ブルームギャラリー・大阪、Documentary Arts Asia・タイ/チェンマイ)、2016年「border/korea」(大邱フォトビエンナーレ・韓国/大邱)、「border/Syria」(水原フォトフェスティバル・韓国/水原)などに出展。2017年に刊行した「border | korea」(リブロアルテ)では、第 30 回「写真の会」賞(2018年度)を受賞する。また同名の個展「 Kanzan Curatorial Exchange『緯度温度 vol.1』菱田雄介『border | korea』(Kanzan Gallery 東京都千代田区、2018.05.27- 06.24)を開催する。2020年 東京都写真美術館「日本の新進作家vol.17 あしたのひかり」に選出され、写真と映像作品を展示する。その他の写真集・著書に「ある日、(ONEDAY,UNDER THE SAME SUN.)」(プレースM/月曜社、2006年)。「BESLAN」(新風舎、2006年)。「HOPE」(Shibuya Publishing Book Sellers、2011年)。「アフターマス-震災後の写真-」(飯沢耕太郎氏との共著、NTT出版、2011年)。「border | McD」自費出版。「2011」(vnc、2014年)。「2011年123月」(彩流社、2021年)などがある。

本書は、2009年より北朝鮮 | 韓国を幾度となく訪れて撮影されており、朝鮮半島の北と南で撮影された似通ったイメージを見開きで並置した構成になっている。2つの国家の同一の民族の現在を横軸に、日本の植民地支配から解放(1945年)され、北緯38度で分断された歴史を縦軸に編まれたクロニクルの様相を呈している。

2019年1月23日号の三田評論onlineの中でこう語っている。(以下本文。)

https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/crossroads/201901-1.html

平壌に初めて降り立った日、空港から街へと続く車窓の景色を眺めながら、自分は時間旅行をしているのではないか? という気がした。農作業を終えて帰路につく農民、歌いながら集団で帰宅する子どもたち。金日成主席への忠誠心や軍国主義がもたらす光景は戦前の日本の延長線上にあるように見えたのだ。/板門店を訪ねると、軍事境界線の向こうに韓国側からやってきた観光客の姿が見えた。ここからバスで1時間も走ればソウルだ。そこにはスタバもあればマックもある。同じ民族が全く別の価値観で国を作り上げていることへの強烈な「違和感」。/この感覚をもとに、僕は「border | korea」というプロジェクトを始めた。北朝鮮でポートレートを撮り重ね、韓国でも同じような年齢、属性のポートレートを撮影し、併置して見せる。新生児から幼稚園児、学生、結婚式、軍隊、中年、高齢者、バス、地下鉄、水平線……被写体は多岐に及び、僕は8年間で北朝鮮に7回、韓国に10回ほど通って1冊の写真集を作り上げた。/まず反応してくれたのは沢木耕太郎氏だった。彼は自身のラジオ番組でこの作品について「その最大の衝撃は、2枚の写真の相違性ではなく、同質性だった」と語ってくれた。写真は作者の意図を超えたイメージを読者にもたらす。相違性だけでなく同質性に目を向けられたことで、この写真集の世界観は広がった。(本文終わる。)A4変型、120頁、上製本。

ホームページを訪れていただければ非常にドラマティックな写真家の人となりが伺えるのではないだろうか?。