旅の理由(わけ)

第四話 上海ガニの思い出。

いい時代になってまた海外旅行が出来るというならどこに行きたいだろうか?と考える時、最初に上海は入ってくる。2017年 初めて上海を訪れた時は、まだ上海ガニのおいしい季節のこともよく分かっていなかったので、滞在中のホテルに入っている海鮮料理で有名な中国料理店で「上海ガニはまだ早い。2週間後に来なさい。」とあっさりと断られた。代わりに普通のカニチャーハンを頼んだのだが、人生初めての海外一人旅の初日のディナーのテーブルを飾ったのは、紛れもなく普通の大盛カニチャーハンだった。あなた一人で2品は食べきれないよという顔をして、にやにやしている店員にやさしく微笑んでビールを頼んだ。上海で撮った写真を見返して見ても、これと言って気にいった観光地や有名な建物もないのだけれど、街という街には何かしら異国の風情があった。上海は古くからフランスやアメリカ、イギリスなどが上海租界という居留地を作って、こぞって海外貿易の拠点としたこともあって、その国の雰囲気を今に残している。今ではどこをどう歩いたのかも忘れてしまったが、上海にいた3日間で60kmは歩いた。疲れて歩道橋の上で足をマッサージしていると、中国人観光客に道を尋ねられたことを思い出す。上海にまた行ってみたい理由は、もしかしたらあのカニのせいかもしれない。