旅の理由(わけ)

第十話 異邦人、澳門(マカオ)。

非常に短い時間で澳門(マカオ)のことを知ろうと思って出かけたが全く無理であった。そこはまるで香港の街と同じようだったし、もしかしたらその他の中国の街やアジア圏の他の都市ともちっとも変わらないのか?、全く何の理解も出来ぬままに香港へと向かう高速フェリーに急いで乗ってしまった。「東洋のラスベガス」と華やかに伝え聞くカジノなどに代表されるリゾートの街は、もしやもっと別のフロアーにあったのではないかと何度かガイド本を見直した。私が知った澳門は時代に取り残された今にも崩れ落ちそうな街並みと、お年寄りが集まっては様々な暇つぶしに興じているような公園の風景ばかりで、エンターテインメントと欲望が渦巻くそんなそぶりは全く見せてはくれなかった。街の所々に発見するポルトガル領時代の遺構(世界遺産)などを見ていると往時の栄華を少しは感じさせてはくれるが、どれも古くて作り物のように見えてしまう。ただしふとした街の通りから見えるグランド・リスボア ホテル(新葡京酒店、Grand Lisboa)だけは、ここが只者の場所ではないことを思い起させるのだった「ちょっとふり向いてみただけの異邦人」(異邦人、久保田早紀、1979年)が、なぜだかずっと頭の中に流れて消えなくなっていた。