旅の理由(わけ)

第十三話 冬の旅、ローマのクリスマス。

2009年の年末から年明けにかけてイタリアを旅した。スケジュール通りだとフランクフルトからローマに入り、ナポリ、ベネチア、フィレンツェと廻り10日ほどでイタリアを縦断するはずだったが、その年はどうも欧州全体が寒波に見舞われていたようで、イタリアでも歴史的な大雪が降った。欧州旅行の頼みの綱であるユーロスターは待てど暮らせど動こうとせず、半日ほど辛抱強く待ったが結局運休となった。おかげで楽しみにしていたピッツァとナポリの街はあきらめることにした。急遽その日はローマ観光にシフトしてバチカン市国を廻ったり、美術館や歴史的な建物を見て暗くなるまで市内を歩いた。お店もどんどん閉まり始め芯まで冷えた体を丸めながらのホテルまでの帰り道、たまたま通ったスペイン階段には人だかりが出来ていた。その視線の先には「天使にラブ・ソングを…」然と した聖歌隊が修道院長の弾くピアノの伴奏でノリノリで歌っていたのである。その日はクリスマスイブだった。あとから知るが階段を上りきったところにはトリニタ・デイ・モンティ協会があり、そこのシスター達だったのである。イタリアの旅を振り返るとほとんどが寒さにまつわる記憶しかないが、この時ばかりは冬のローマもいいものだと思ったのである。ちょっとだけだけど。