旅の理由(わけ)

第十四話 旅の醍醐味、ベネチア。

ベネチアに着くとすぐに”水上タクシーに乗って行け!”と声をかけられたが、値段を聞いてびっくりした。大丈夫、歩いていくよ!と答えたのだが歩き出してからよくわかった。水の都と呼ばれるベネチアの街はアドリア海の干潟に何本もの木を打ち込んで、その上に石を敷きつめただけの人工島である。だから道は狭くて曲がりくねり路地はでこぼこの石畳である。さらにたくさんある水路を渡るためには何度も階段状の橋を渡らなければならなかった。もちろん大きな荷物を持っての移動などもってのほかで、こんなことなら!と口に出してももう遅かった。だが慣れてしまえば便利なもので、どこに行くにも水上バスに乗れば楽ちんである。潮が満ちてくると徐々に水没していくマルコ広場の夕景や、夜のリアルト橋などの美しい街並み。水かさが増しても大丈夫なようにあらかじめ船の中に並べられている本屋さんなど見るものはどれも新鮮だった。狭い路地で出会った”迷っているなら僕についておいで”と声をかけてきた物売りの青年を辻でうまくやり過ごしたり、ベネチアのホテルにはパスポートを忘れたりと旅の途中にはいろいろなことが起こるが、それも旅の醍醐味だと思っている。ちなみにパスポートはFedexで次のホテルまで届けてくれたが料金はカードからちゃっかり引かれていた。