旅の理由(わけ)

第十七話 カモメのこと、松島。

十年前くらいになるが、当時は仕事で全国を廻ることが多かった。いわゆる大衆演劇の一座のように大量の資材を積んだトラックとともに全国を廻って新商品をアピールして廻るような仕事だった。10tトラック数台分の資材を運び込んで長くて2日間の間にレイアウトを整えてお客さんを迎え入れる。そして数日後にはすべての資材を撤収して、またトラックに積み込んで次の都市を目指すのである。まさに戦場のような日々だったが、意外とその頃は楽しくて仕方なかった。もちろん搬入と撤収の間のフリーな時間には街に出た。仙台もその都市の中の一つで、行くと決まって塩釜で寿司を食べ、松島にやってきては遊覧船に乗るのである。何度乗ってもどれだけ説明を聞いても一向に松島がどんな場所なのかは理解できているとは思えないが、ひどい時には2日続けて遊覧船に乗った。そして必ず船内でカモメのエサであるかっぱえびせんを買うのだ。カモメは全然かわいくないしまったくなつくような素振りも見せないが、狂気に迫る迫真の飛行シーンは見ているとだんだん元気が出てくる。その翌年2011年3月11日に東日本大震災が起こった。松島もかなりの被害を受けたと数年後に再訪した時に聞いた。あれ以来遊覧船にはなぜか乗る気がしないのだが、いつかまたカモメ達にかっぱえびせんを上げる日はきっと来ると思う。