陳偉江特別展
-HELLO GOODBYE-

2018.09.01 - 09.30

陳偉江特別展写真01

GALLERY STATEMENT

本展示会は香港の写真家 陳偉江氏の作品を展示する特別展である。写真を媒体とした展示会であるだけでなく映像、音楽、造形などの空間要素を織り込んだインスタレーションにより幅広い世代の皆様に興味を持っていただき陳偉江氏のユーモアと人間愛に満ちた作品世界により深く触れていただくことを主たる目的とする。さらには様々なメディアを通じて幅広く世界へ向けて発信するものとする。この展示会を通じて陳偉江氏の写真に出会い、彼がいつも生活し活動の拠点を置く香港・澳門(マカオ)に興味を持っていただき、引いては東アジア地域の写真に興味を持っていただければ幸いである。

陳偉江 Chan Wai Kwong PROFILE(2019年現在)

陳偉江は1976年香港生まれ。1988年、わずか一年で中学校を退学し、それから長い間職を転々としてきた。10代の頃から何とはなしに写真を撮り始め、完全な独学と独立独歩の精神で写真にのめり込んでいった陳は、2012年の頃、全ての時間を写真に集中するために仕事を辞めた。常にフィルムで様々な対象を撮り、自らのプリントとハンドメイドの写真集を販売し主な収入源としている。険しく細く、かつ宿命づけられた写真家としての道から陳は逸れることはなく、これまでに20冊以上の写真集を自費出版している。(禅フォトギャラリーホームページより)

禅フォトギャラリー 陳偉江| https://zen-foto.jp/jp/artist/chan-wai-kwong

STORY

陳偉江特別展写真02

香港の街とチャンとの出会い

チャンに初めて会ったのは香港 九龍サイドにある尖沙咀(サムサーチョイ)の通りだった。ハットをかぶり背が高く見た目にも痩せて眼光するどい眼には意外にも人懐っこい笑みをたたえていた。「お前は何をしに来た?」と聞くので、私は「香港であなたが何を撮っているのかを見たい。写真を撮っているところを撮影したい。」とだけ伝えた。ほとんど英語を話せない私と広東訛りの強いチャンの英語では分かり合えることはなく、ほとんどの場合は苦笑いの末にあきらめた。チャンはついて来いと言った。2018年の秋から冬、2019年の春にかけて3度の渡港を繰り返し、私たちは長い間2人だけで九龍サイドそして香港島を歩いて撮影して廻った。

陳偉江特別展写真03

ほとんどの場合がそうだが会うとまずめし屋に入る、それはオーソドックスな香港人の付き合い方なのかチャン特有なのかはわからないがとりあえず従った。それは香港のあたりまえの朝食が味わえるような雑居ビルの地下のお店であったり、通りがかかりのソーセージのおいしい店の軒先だったり、蛇を食べる店だった。我々はそこでとりあえず数時間分の腹を満たし、数十分分のタバコをチャンが吸っている間に、私は独特の味のするミルクコーヒーを飲んだ。念入りに当日の行動を確認するのだが、どこかわけのわからない国語を話し、ほとんどが出たとこ勝負のようなでたらめなドキュメンタリー映画を撮影しているような日々だった。

陳偉江特別展写真04

チャンはきっといつもより大袈裟に振舞って見せてくれていたのだろうが、日本で思い描いていたよりもずっとアグレッシブで刺激的な時間だった。時には通りの人々に向けて、時には細い横道に入ろうとする猫に向けて、時にはエスカレーターを上がる若い女の足に向けて、時には壁に貼られるステッカーに向けて、チャンのカメラは容赦なく向けられ、あっけなく奪い去られる一瞬の景色を私はカメラの中の眼差しでずっと追いかけた。チャンは街や人を思う存分撮り、私はそんなチャンを飽きずにずっと撮り続けた。カメラが発熱しバッテリーは何度もなくなったが、それはどちらかがもう今日は良いだろうと言うまで(たいがいは私が気を遣うのだが)続いた。時々チャンはカメラを何度か私にも向けたが、それはそれほど撮りたいものではなかったのだろう。しかしそれはチャンの優しさゆえだと思っている。のちにこんな写真を送ってよこした。

陳偉江特別展写真05

チャンの家

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香港滞在中に何度かチャンの自宅に行くことがあった。それは郊外の住宅街にある駅前の超高層住宅の上層階にあった。まさしくそれは香港特有の住宅事情を余すことなく体現していたのだが、私にはどこか映画の世界の様な気がした。日本製ビールとテイクアウトしたごはんで夕食を済ませると、ストックしてあるプリントを見たり、これまでに開催してきた展示のDMを見せてくれた。

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その中には2011年10月から11月にかけて東京銀座にあるガーディアンガーデンで開催されたグループ展「アジアンフォトグラフィー第7弾」「発光する港~香港写真の現在2011」(キュレーターWU Jiabao)の図録もあった。感心してみていた私に気付いたのかDMとともに持たせてくれた。英語のわかるエイダがいる時は何となくつながれる話をしたが、日本語の話せる友達がいる時はもう少し踏み込んだ話をした。香港では高温多湿な雨の時期が長く続くのでたくさんのプリントが変色したり波打ったりして駄目になってしまうこと。中古のカメラ屋さんがあるのだがフィルムカメラの多くは日本のネットのサイトで買うということ。香港の若者は年に何度か日本に行くということ。日本では養生テープを買うのだという。貼ってまたはがせて使えるテープは珍しいと。そしてチャンは日本の写真家の荒木経惟と森山大道の影響を受けていることを私に伝えた。

ガーディアンガーデン 発光する港~香港写真の現在2011| http://rcc.recruit.co.jp/gg/exhibition/gg_exh_201110/gg_exh_201110.html

陳偉江特別展写真08

何度が新作の写真集が完成するたびに見せてくれたが、春に行ったときはちょうど澳門(マカオ)の写真をまとめた大型の写真集「心形馬交 something macau」が完成したというので持って帰れと言う。しかしこの写真集3kgくらいは優にある。いくつもの服や靴を捨てて帰らなければならなかったのでそれはちょうどいい断捨離になった。

大阪での個展開催について

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大阪で個展をやろうと提案した時にはまだギャラリーの全体像はなく名前も決まっていなかったので、当然写真展の進行とギャラリーの改装など開設に関する準備は同時に進行していた。展示に際してチャンにお願いしたことは、新作を出すこと。香港で写真を始めた頃の写真を展示すること。そして「兄弟」というシリーズを展示したいということ。それ以外は何をやってもいいと伝えた。いくつかのDM用の画像とともに「HELLO GOODBYE」というタイトルが当時撮影していた台湾から送られてきた。後になってわかったことだがDMに掲載してある写真のほとんどは日本に持ってきていないという事実。こんなことはそれ以降もたくさんあったがそんなにたいして問題はないのである。

チャン現る

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2018年8月31日快晴、関西空港。その日私は車でチャンとエイダを空港まで迎えに行った。到着予定時間より大幅に遅れて彼らはたくさんの荷物とともに入国ゲートに現れた。大きなスーツケースにはプリントが小さいスーツケースには写真集とたくさんのフィルムを入れたジップバックが詰まっていた。保安検査場で手荷物検査があったので出てくるのが遅れたのだと言って笑っていた。同じことを私も香港からの帰国の際に経験していたから気持ちはわかった。「香港の写真家の展示のためにたくさんのプリントを持ち帰ったのだ」と説明すると若い検査院は「売れるといいですね」と言ってくれたが、そんなことより早くここから出してほしい気持ちで一杯だった。チャン達は「暑いね!」と言いネクターを飲み大阪市内を目指した。

作品搬入のこと

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無事に荷物をギャラリーに届けるとお腹が空いたと言うので近くのイタリア料理店でお腹を満たすことにした。いくつかの料理を注文し再会の乾杯をしていくらか話をした。その後ホテルに行くのかと思いきやチャン達はギャラリーに戻りもうすでにスーツケースを開けて、いくつかの作品を壁に取り付けようとしていた。もう21:00前だがまあいいかと思い付き合った。展示についてはおおまかにカテゴリーとエリアを決めていたので。レイアウトが決まったものからプリントの4隅に来るであろう場所に画鋲を押してその上にプリントをマグネットで押さえていく。それを繰り返すこと数百枚、翌日は別の会場の設営もあるので結局オープンの時間を遅らせて搬入を続けた。

「oh my little girl」at Pulp

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当時久宝寺に移転していたギャラリーpulpのオーナーの田窪さんにお願いして9月1日から9日まで「oh my little girl」の展示を開催した。同タイトルは禅フォトギャラリーで昨年発表したものだったが、当時発売した写真集では表現できなかったものとそれ以降に追加で撮影されたものを含めた新たな展示をしたいという希望だったが、HIJU GALLERYのキャパではどうしても収まり切らないということでpulpにサテライト会場を作った。わずか数日ではあったが大阪市内で2つの展示をサーキット形式で見てもらえたので面白い展示になったと思っている。

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「oh my little girl」は澳門(マカオ)で知り合った女性ルナとの愛欲の日々を伝える内容だが、展示点数を稼ぐために会場の中央に金網で檻のような柵を作った。その柵の内部にはスライドプロジェクターを置いて会場の壁にカラーのスライド100枚を投影した。プリントの展示点数は大小150枚に及んだ。

飛田新地とチャン

大阪滞在中にどこか行くのか?と聞くと数日は大阪で撮影して、後は京都に行くと言っていた。それと大阪の京橋にある「ホテル富貴」というのを知っているか?というのでレトロなホテルの場所だけ教えておいた。それ以外はと聞くと「飛田新地」に行きたいのとおいしい馬刺しが食べたいと言った。我々(チャンとエイダと私と奥さん)は改めて日を用意してタクシーに乗り込んで飛田新地に向かった。タクシーの運転手は慣れたものでこういった多くの観光客を案内しているのだろうか、一通りお決まりのコースを案内してくれた。これ以上はタクシーでは入れないと言うのでチャンに歩いてみるかと聞くと、もうすでに戦闘モードになっていた。それからのことは写真集「大阪」を見ていただきたいと思う。その後興奮冷めやらぬ一行は馬刺しと大阪グルメを求めて新世界を歩いて一軒の居酒屋にたどり着いた。チャンの行くところではどんな場所でもいろんなことが起こる。酔っぱらいに話しかけられることなどは当たり前であったが、たまたま入った居酒屋のカウンター越しで店員が取っ組み合いのけんかを始めたりするのでシャッターチャンスに困らない。でも東京で会うときは何も起こらないので場所にもよるのかもしれない。

アマンダさんと東方さん来る

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今回の展示では禅フォトギャラリーのオーナーであるマークさんの多大な協力のもとに開催にこぎつけることができました。ありがとうございました。それとこまごまとしたやり取りを同じく禅フォトのボニーさんにたくさんお願いしました。またチャンが興奮すると話が通じないことがもどかしいとよくボニーさんやアマンダさんに香港から電話をかけるので、国境を越えて翻訳してもらうことになりお2人には随分とご迷惑をかけました。重ねてお礼申し上げます。

最初は本気で怒っているのかと面食らっていたがただ言いたいことを主張しているだけだと聞き胸をなでおろすこともあった。そして二手舎のオーナーである東方さんには今回の展示のステートメントをお願いしたのでした。そんな2人がギャラリーにやってきたのは大型台風が来るちょうど前日、お2人は短い再会しかできなかったがチャンは久しぶりの再会に楽しそうだった。急いで二人が東京に戻った後、あのとてつもない台風が大阪に襲来し、最大瞬間風速58mという暴風は関空連絡橋を壊し関空を水没させ、そしてチャン達の帰国をさらに数日遅らせることになった。案外二人は平気のようだった。

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ステートメント全文

2014年、香港。 陳偉江に初めて会った瞬間(とき)、彼は私を盗み撮りしようとしていた。

実に怪しいその男は、長い黒髪に髭を生やし、黒い服を着て、爬虫類のような眼で私を見ていた。ただならぬ雰囲気を醸し出していた。聞くところによると、彼は写真を撮り、自作の写真集を制作し、それらを売ることを生業としている。写真は独学だそうだ。香港の昔ながらの地域をぶらつきながらスナップをするのが彼の基本スタイルである。

肖像権が成熟化した日本では、もはやストリートスナッパーは滅多にお目にかかれない絶滅危惧種のようになってしまった。今は見ず知らずの人にカメラを向ける行為は、銃を突きつける行為と同義なのかもしれない。そんな時代においても彼は日々香港の雑踏を彷徨い、本能のままにシャッターを切る。変化の激しい香港で、写真家以外の人生を選ばず、覚悟を持ってその道を追求する彼の生き様が、日本でどのような評価を受けるのか少し楽しみである。

二手舎 店主 東方 輝

インタビュー

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三度目の香港はちょうどHK PHOTO BOOK FAIR 2018開催にタイミングを合わせて行ったので、私は出展していたチャンのブースの裏に座って普段はどうやってファンと交流しているのか見ていた。ちょうどその時ふとインタビューしてみても面白いかと思い立ち、禅フォトブースにいたボニーさんにお願いして質問内容を書いた日本語を広東語に翻訳してもらって、それをチャンに渡して後で家に帰ってから答えてもらうという動画を撮影した。そこから文字を起こしたものを作成して展示会場に掲示した。その全文を掲載する。画像は今からインタビューに答えるチャンの姿だ。

Special thanks to Bonnie Kakinuma for translation of English and Chinese.
インタビューはこちらから

HIJU GALLERYでの展示

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展示は新作「心形馬交 something macau」「oh my little girl」を中心に、彼が写真を始めた頃に撮られた作品を当時彼が住んでいたマンションの一部を再現した空間に展示した。さらに彼の姉の子供たちを撮った「兄弟」と台湾で撮られたカラーの新作など数百点に及んだ。また会場では壁の一部を使って3度の渡港の際に撮影した動画を投影して彼が活躍する香港の様子を体感してもらうような展示となったと思っている。御来場いただきましたすべての皆様、そしてすべての御関係者の皆様、ありがとうございました。

プロモーションビデオの紹介

CHAN WAI KWONG Special Exhibition PV1
https://www.youtube.com/watch?v=lwC9X9N-bNI&t=42s
CHAN WAI KWONG Special Exhibition PV2
https://www.youtube.com/watch?v=H8LLrP3aWPo
Special thanks to Sugar-cog for making a promotion videos.
https://www.sugar-cog.com/
Special thanks to ait guitar trio for good music
http://www.aitguitar.com/index.html

写真集のご紹介

『oh my little girl』
(禅フォトギャラリー)
『油麻地 Yau Ma Tei』
(禅フォトギャラリー)
写真集および作家のお問い合わせは禅フォトギャラリーまで
https://zen-foto.jp/jp