石田省三郎個展
‐CROSSING RAY‐  光を奪う。東京・交叉点。

2019.01.26 - 02.17

ARTIST STATEMENT

都市の象徴ともいえる交叉点から、文明の証である光を取り去ったらどうなるだろうか。

「Crossing Ray」シリーズは交叉点から建築物が発する光を極限まで奪い、その形骸を写し出すことにより、都市の本質に迫ろうとする実験的試みである。光を奪う手法として、東京の主だった夜の交叉点を四方向から撮り、その4カットを比較暗合成して1枚に仕上げた。3.11の原子力発電所事故に伴う計画停電により、街から光が奪われた経験が制作動機となっている。 電力が実用化されてから、まだ百数十年あまり。発電の技術が問い直されようとしている今への問題提起となるかどうか。

石田 省三郎 Ishida Shozaburo PROFILE(2019年現在)

1946年生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。

「土田、日石、ピース缶爆弾事件」、「ロッキード事件」、「東電女性社員殺人事件」など、戦後史に名を刻む刑事事件の弁護に携わる。

著書に『「東電女性社員殺害事件」弁護留書』などがある。

東京・東銀座の石田法律事務所で実務に携わりながら、写真評論家のタカザワケンジさんディレクションによるIG Photo Galleryを主宰。

自身も京都造形芸術大学で写真を学び、3.11福島第一原子力発電所事故により「帰還宅困難区域」に指定された地域を路線バスから撮影した作品をまとめた写真集「Radiation Buscape」(デザイン鈴木一誌+山川昌悟、解説タカザワケンジ)などを上梓。

EVENT

TALK SHOW | OPENING RECEPTION 1月26日(土) 18:00~20:00
ゲスト : 金村修 / タカザワケンジ

STORY

IG Photo Galleryにて

銀座三丁目にあるビルの一室でご自身が運営されているIG Photo Galleryにて石田省三郎さんとは初めてお会いした。そのとき私は早く出たにもかかわらずいつものように東京という迷路に迷いこんで、待ち合わせぎりぎりにビルに飛び込んだ。そのせいもあってか大変緊張していて最初からうまくしゃべれずに展示についての詳細もうまくお伝えすることも出来ずにいた。そんな私に助け舟を出していただいたのか「それではまず作品を見ていただきましょう」と事務所の中に入って行かれた。しばらくして石田さんが持って来られたのは大判のロール状のプリントであった。それは縦方向に優に1mほどの高さがあり広げると横幅はもっと広かった。漆黒のプリントにはまるでネガのような光の濃淡が彫り込まれているようで不思議と鳥肌がたった。さらに制作を始められた経緯を聞き、制作方法などを質問していくたびに非常に感銘を受けた。ぜひともこの作品を大阪に持ち帰りたいという思いが強くなり、いつしか緊張など忘れて語り始めていた。

IG Photo Gallery | https://www.igpg.jp/

HIJU GALLERYでの展示

個展は2019年の最初の展示としてまだ寒い1月から2月にかけて開催された。A0サイズ(1189mm×841mm)で統一された漆黒の大判プリントは17点でほぼすべてのギャラリーの壁を埋め尽くし、真っ白な部屋に実によく映えた。一つ一つの作品には個別の交叉点の名前があり各々に交叉点の持つ個性をよく表している。ただしそう思えるのは交叉点の名前が明らかになってからであり一見では判然としない。しかもそのいずれもが異界へいざなう別々の不思議な窓の様にも見えてくるので不思議である。

交叉点の4方向からカメラを構え、同じ日の同じ時間帯に同じ交叉点を狙って撮影されたイメージを、暗合成という手法を用いて一枚の作品として合成していく。その際ある方向から撮られたイメージの明るい部分は、別の方向から撮られた暗い部分に置き換えられていく。手法がうまく機能すればするほど交差点からはどんどん光が消えていくので作品のテーマ性が非常に際立つ手法だということがわかる。ただしカラー写真ではあるがほとんど光がなく、どれだけ最新のカメラ技術を駆使しても色を捉えることが容易ではない。都市の象徴としての交叉点、文明の証である光、光を奪われた東京というテーマが色濃く反映された作品となっている。

細かい部分を見てみると作品には実社会で生活をしている人や車が写り込んでおり、さらに「三菱東京UFJ銀行」や「リカーマウンテン」などの文字も多く見られ、なるほど本来の交叉点の姿であるのだということがわかる。またそれと同時に在りし日の東京のような疑似的な虚構の世界に放り込まれるような感覚も味わう。展示当時、シリーズは70点余り完成しているとのことだったが、100点(100の交叉点を撮る)までは続けたいとおっしゃっていた。また東京以外での都市でも同じ試みをやってみたが、圧倒的に交叉点の光量が足りないので一面でも暗い方向があると、ほとんど色がなくなってしまうとのことで断念したと言うことだった。

石田省三郎個展 CROSSING RAY光を奪う。東京・交叉点。開催記念トークショー

2019年1月26日(土)のオープン初日の夕刻、トークショーは開催された。トークゲストは石田さんが主催されるIG Photo Galleryのディレクションをされている写真評論家のタカザワケンジさんと、京都造形大学時代からの師である写真家金村修さんとの3人で行われた。弁護士としてこれまで活躍されてきた経歴の中で写真というものといかに関わってきたか。写真を始めた動機と京都造形大学で写真を学ばれた学生時代のお話し。卒業制作である被災後の福島での撮影のことなど大変貴重なトークショーであった。また今現在の活動など石田さんの誠実で真摯な写真への取り組みを聞き、冴えわたった対象への冷静な視線など、作品や人柄を知れば知るほど稀有な作家と言わざるを得ないのである。

TOPICS

「朝日新聞の夕刊の社会欄に記事が掲載された」と石田さんからの連絡に気づいたのは、発売日の夜の8時くらいだっただろうか!?「良かったら買っといて下さい」という文字を見てすぐに飛び上がった。真冬の大阪を自転車で駆け巡ったことは今ではいい思い出だ。

写真集のご紹介

Radiation Buscape
石田省三郎
出版社: IG Photo Gallery; 初版 (2018/4/13)
ISBN-10: 4908647100
ISBN-13: 978-4908647109
石田省三郎 Radiation Buscape アマゾンサイトへ | https://www.amazon.co.jp/Radiation-Buscape-石田-省三郎/dp/4908647100