野村恵子個展
‐山霊の庭‐ Otari-Pristine Peaks

2019.06.08 - 07.07

ARTIST STATEMENT

眼下にはどこまでも広がる白銀の世界。雪山に轟く一発の銃声が静寂を引き裂いた。その瞬間、私の魂も山の木霊とともに震えて、空に飛び散っていくような気がした。

信州、小谷村。北アルプスの山脈に抱かれたその麓には、小さな集落が点在し、その営みを今も静かに残している。村人は、厳しくも豊穣な山の自然とめぐる季節の流れの中で、日々暮らしている。 真冬には積雪が三メートル近くにもなる豪雪のこの地に、私が初めて訪れてから、四年が経った。 当初、私はここの伝統的な火祭りや狩猟の取材のために訪れたのだが、山の自然とそこにたくましく根付いて生きる人々との出会いは、都市を頼り生きてきた私の想像をはるかに超える出来事となり体験となっていった。その営みは清冽にして根源的な深さを秘めているように感じていた。「山の恵み」と彼らはなんどもいう。山の自然を畏怖、畏敬し、目の前に立ち現れる野生と真摯に向き合うということ。

深い山の中にいると、ふと、自分という儚い存在が、大きな懐に包まれているような感覚になるときがある。それは人智を超えた意志を持ち、絶えず呼吸している、ひとつの巨大な生命体のようだ。山は水を生み、あらゆるいのちを育んでいる。その麓で、家族と仲間と共に生きて働いて、いのちをつないでいく。

見上げれば、悠久の頂と天がすぐそばにある。めぐりゆく四季の中で、彼らにしばし添い、心身の感知するままにシャッターを切った。

2018年 秋  野村恵子

野村 恵子 Nomura Keiko PROFILE(2019年現在)

兵庫県神戸市生まれ。兵庫県立兵庫高校卒業後、同志社女子大学英文学部中退、ビジュアルアーツ専門学校・大阪を卒業。卒業後、渡米。ロサンゼルス、ニュ-メキシコ州・サンタフェにてワ-クショップ等で写真を学ぶ。99 年に沖縄をテーマにした写真集『DEEP SOUTH』をリトルモアより刊行。「コニカプラザ新しい写真家登場」年間グランプリ、99 年日本写真協会新人賞、2000年東川賞新人作家賞を受賞。その他の写真集に『Soul Blue 此岸の日々』(Silver books/ 赤々舎)、など多数。2016 年、東京都写真美術館で開催された「東京・Tokyo」展に出展。2018 年、入江泰吉記念・奈良市写真美術館にて写真展開催。2019年、林忠彦賞受賞。

EVENT

TALK SHOW | OPENING RECEPTION 6月8日(土) 19:00~

ゲスト:野村恵子 × 大下 裕司|1987年横浜生まれ、大阪中之島美術館準備室学芸員。ヨコハマトリエンナーレ2017アシスタント・キュレーター、横浜美術館学芸員を経て現職。主な企画展に「オオカミの眼」(2017/BLOCK HOUSE)など。現在も複数のタイトルと新しい作品に向けて撮影を精力的に行っている。

ポートフォリオレビュー

6月23日(日)8名限定(20枚~50枚程度の作品をお持ちの方)

STORY

入江泰吉記念奈良市写真美術館で開催されていた「野村恵子×古賀絵里子Life Live Love」展を見た私は非常に感動していた。ここで見ているものはまさに人生であり生活であり愛という名の生命なのだと感じた。

入江泰吉記念奈良市写真美術館 | http://irietaikichi.jp/news/exhibition/195
出会い

野村恵子さんを紹介していただいたのは川島小鳥さんだった。ラフな格好でギャラリーに来ていただいた時に、おもむろに取り出されたのはご自身が撮影した作品がプリントされた名刺だった。私はこの人と仕事をするのだという強烈なインパクトがあった。

HIJU GALLERYでの展示

作家にとって場所を変えながら作品の展示を続けることは有意義であることは間違いないが回を重ねるごとにそこにつぎ込まれるエネルギーの必要度は増していくのではないだろうか。奈良市写美術館、KANZAN GALLERY、林忠彦賞受賞展と立て続けに開催していく展示の中で、さらなる展示を見せようとする作家の力強さと言うか、情熱と言うものを垣間見たような気がした。

オサムジェームズ中川さんと海外の学生さんたち

会期中の出来事

野村さんが関西出身ということもあり、学生時代からのお知り合いの方や様々なゆかりを持つ皆々、たくさんの写真関係の方に多くお越しいただいた。そしてそれは人間関係を大事にされる野村さんの人柄をよく表していた。

OSAMU JAMES NAKAGAWA | https://jamesnakagawa.com/en
EVENT

TALK SHOW | OPENING RECEPTION
6月8日(土)19:00~

トークショーはオープン準備室で精力的に活動されている大阪中の島美術館のキュレーターの大下裕司さんを迎えて開催された。途中百々俊二(入江泰吉記念奈良市写真美術館)館長も参戦しての場外戦に持ち込まれそうになりましたが、楽しくもありいろいろと勉強になる夜となりました。

ポートフォリオレビュー

6月23日(日)にはポートフォリオレビューが開催された。

参加された方の中には今まさに写真の世界の扉を叩こうとしている学生の方や、もうすでに写真家としての活動に邁進されている方まで多くの方に参加いただいた。一人ひとりの作品を見ながら、またしっかりと参加者の顔を見ながら熱のこもった語り口で、写真に対しての愛と情熱を、そして作家に対しては寛容で激励の言葉を投げかける姿に、多くの参加者が励まされたに違いありません。その後はオープニングパーティーとなりました。多くの時間とパワーをギャラリーに費やしていただきありがとうございました。

TOPICS

今思い出すとほとんどの時間を素面でいることが無かったのだが、それも今ではいい思い出となっている。そしていつの日かまた何か次の機会にお会いしておいしいお酒を飲みたいなと思っているのです。トークにご登壇いただいた大下さんの言葉が非常に耳に残っている。それは野村さんのパワーもあると思うのだが、いろんな場面でギャラリーのあちらこちらで写真を学んでいる若い人たちが交流しているのが大変印象深い。とのお話だった。それは非常に新鮮で意味深い言葉だった。ありがとうございました。

写真集のご紹介

Otari-Pristine Peaks 山霊の庭
  • w21 x h24 cm 96 ページ
  • 58イメージ(カラー) 上製本
  • カラーオフセット印刷
  • 限定1000部
  • Published in 2018 SUPER LABO
  • ISBN 978-4-908512-28-5