鈴木育郎特別展
‐終夏‐

2019.09.14 - 10.14

GALLERY STATEMENT

本展示会は写真家 鈴木育郎の作品を展示する特別展である。

鈴木は2013年キヤノン「写真新世紀」グランプリを受賞後2冊の写真集を世に出している。しかしそれとは別に自主製作による少部数の写真集を制作し発表することにこれまで重きを置いてきたが、本展示会では久しぶりにプリントによる新作展示となる。また新旧の自主製作本も併せて展示する。まさに現在における鈴木育郎の集大成といえるだろう。

協賛:キヤノン株式会社

鈴木 育郎 Suzuki Ikuro PROFILE(2019年現在)

1985年、静岡県浜松市生まれ。写真家。

2010年、舞踏家 吉本大輔氏のポーランドツアーに同行。帰国後東京に移る。

2013年、「鳶・CONSTREQUIEM」で、キヤノン「写真新世紀」グランプリ受賞。

個展に、2012年「月夜」マチュカバー。2013年「月の砂丘」蒼穹舎。2014年「月夜」nuisance galerie 、「写真新世紀」東京展2013「最果-Taste of Dragon」(東京都写真美術館地下1階展示室)

著書に「解業」(2015年、赤々舎)、「月夜」(2018年、日版アイピーエス)があるほか、小部数ながら自費出版による写真集多数。(詳しくはSO BOOKSホームページへ)

EVENT

TALK SHOW |10月5日(土) 19:00~

ゲスト:鈴木育郎×岸政彦 | 1967年生まれ。社会学者・作家。立命館大学教授。専門は沖縄、生活史、社会調査方法論など。『断片的なものの社会学』(2015年朝日出版社)で紀伊國屋じんぶん大賞2016を受賞。小説「ビニール傘」(2017年新潮社)で第156回芥川龍之介賞候補及び第30回三島由紀夫賞候補に挙がる。2019年にも小説「図書室」(新潮社)で第32回三島由紀夫賞候補となる。その他著書として「はじめての沖縄」(2018年新曜社) 「マンゴーと手榴弾-生活史の理論」(2018年勁草書房)などがある。

STORY

鈴木育郎、現る。

ギャラリーに現れた鈴木育郎は、ただいま現場から帰って来ましたというような出で立ちで現れ、立ったまま話をつづけた。最初に会った時の印象もそうだったが人懐っこさの中に存分な警戒心を込めてはいるものの、語り口が軽妙なうえに話題の裾野がむやみやたらに広がっていくので、もと来た道にたどり着く頃にはもう懐かしい友人のような心持ちになってしまう。良くも悪くも人たらしなのだ。前回会ったときに大まかなギャラリーの説明と展示の条件などをお話ししていたので、今回は展示作品の話でもするのかと思いきや、この日も2時間ほど話した内容のほとんどは、ぶどう栽培への野望といかに品種改良をしていい種を未来に残していくかという話だった。でも帰った後によくよく思い返してみると短い時間ではあったが理想の展示の話をしていたことを思い出した。

HIJU GALLERYでの展示

2013年にキヤノン写真新世紀のグランプリを受賞して、翌年に開催された受賞展の際に展示した構成をもう一度ここで再現したいということだった。前室には受賞の対象となった自主制作の写真集「鳶 constrequiem」を制作した時代から現在までに撮影したカラー作品で構成し、2015年に赤々舎から刊行した「解業」の世界観を再現する。そして後室には日販アイ・ピー・エスから刊行された2冊目の写真集「月夜」から選出したモノクロプリントで構成して、同じ空間で同時にスライドショーも展示する。そして前室の中央には数十冊の自主制作の写真集を並べるというものだった。そしてその写真集に使う写真はこれから一月ほどかけて日本を廻りながら撮るということだった。

キヤノン 写真新世紀 | https://global.canon/ja/newcosmos/
赤々舎 | http://www.akaaka.com/
日販アイ・ピー・エス | https://www.nippan-ips.co.jp/
写真集を自主制作する

いよいよ搬入という3日ほど前に連絡があり、ギャラリーの近くのkinko’sで写真集を作っていると言うので取材もかねて行って来た。秋口の雨に濡れ帰り道を急ぐ人々が行きかう本町通りにあるkinko’sでは、たくさんの人がやるべき作業をしていた。その中でひときわ目立つ大柄の男が店の入り口のすぐの所に立っている。真っ赤な短パンに白いTシャツ姿、足は当然のように裸足である。この姿でこれから3日ほどここにいるという。制作は順調に行けば搬入日には間に合うということだった。この場所は鈴木にとっては懐かしい場所で、大阪に仕事がある時はよくここに来て自主制作の写真集を夜な夜な作っていたと言う。写真集の制作過程をざっと追ってみると、まずはフィルムカメラで写真を撮って写真屋さんに現像に出す。同時にL版サイズにプリントしてもらったものを貯めておいてkinko’sのカラープリンターでA4サイズに引き延ばす。その時のインスピレーションで大きく変わると言うが、写真の選択や並びを考え両面か片面かを選んで印刷する。再度順番を確認してkinko’sのスタッフにお願いして製本してもらう。そしてそれに自らタイトルとエディションとサインを書き込む。といった感じである。昔のkinko’sのプリンターはゼロックスだったので色がよかったとしみじみ言っていたのを思い出した。

鈴木は写真家という顔の前に鳶という職業に専従している社会人である。そして写真を撮っている顔も同じフィールドで持っている。寝て起きて食べて働いてという生活や日常というものの中に、仕事もあり、カメラもある。その中で朝起きて目を開けるように、誰かに呼ばれてふりかえるようにカメラを構える。人様に見せることのできない写真は絶対撮らないと語るが、その作品に写るものは様々だ。それが日常であろうがそうでなかろうが、撮影したものがすべてである。36枚撮りフィルムカメラで撮影した写真を、順番もそのままに写真集へと仕立て上げたシリーズ「Film or Die」などを見ているとそれは明らかだ。鈴木にとって自主制作する写真集は切り取られたくない生活や日常や生い立ちや現在の環境や思考や未来の全部である。それゆえに写真集にこだわるのだ。それはだれにも邪魔されたくない自分だけの表現なのであろう。

搬入のこと

搬入は展示の前日の9月13日(金)に行われた。大きな紙袋を2つほど抱えてやってきたので中身を尋ねてみると、一か月の間に撮影して現像されたネガフィルムとL版のプリントだという。旅の間もずっと持ち歩いていたというからずいぶんな話だ。

鈴木の目線で設定されているのか少し高い位置となっているが、上段に全紙が1列に並び下段にA4サイズのプリントが2列に並べられた。場所なのか時系列なのかは私にはわからなかったが、鈴木が選び出すプリントを根気よく壁に留めた。

ストーリーテラー

写真家に対して一流であるとかと言うことはナンセンスであるが、鈴木は写真家とは別に一流のストーリーテラーであるという顔を持つ。それはオープン初日に開催したオープニングパーティーの際に遺憾なく発揮された。参加者が展示されている写真を指差すと、それはもういつまでも続くネバーエンディングストーリーなのかと思えるぐらいに話題が尽きない。もちろん話さないもしくは話せないこともあるが、ほとんどの写真には幸か不幸か物語があるのだ。そしてそれを面白く話す鈴木の話しぶりがおもしろくてまたリクエストが尽きない夜となった。

TALK EVENT | 10月5日(土) 19:00~ ゲスト:岸政彦

トークイベントは鈴木のたっての希望で、写真集「月夜」の帯文を書かかれた社会学者であり作家の岸政彦さんとの登壇となった。日ごろは大学でも教鞭をとる岸氏の多彩な話術と深層まで切り取ろうという一流の言語センスでトークは進むが、鈴木の独特なトークセンスと持ち前のパーソナリティーではぐらかされるため、会場はいつの間にかお笑いライブの様に化してしまった。そんなこんなで2時間ほどの時間があっという間に過ぎたのであった。ご登壇いただきました皆様ありがとうございました。そしてご参加いただきました皆様ありがとうございました。

TOPICS

鈴木さんとギャラリーをつなげていただいたのは、代々木八幡にある本屋さんSOBOOKSの小笠原様でした。長い間待ちましたがギャラリーの閉館に間に合ってよかったと思っています。根気強く鈴木さんにオファーをお伝えしていただいた小笠原さんには大変感謝いたします。また鈴木さんが制作した自主制作の写真集はSOBOOKSさんで見ることも販売も可能ですのでぜひ足をお運びください。ネットショップは下記アドレスからお願いします。

会期中に取材していただいた関西写真部SHARE様のインタビュー記事です。
https://share-photography.com/suzukiikuro/

写真集のご紹介

『解業』
鈴木育郎写真集 赤々舎
定価:4,000円+税|263×173mm
256ページ|上製本
デザイン:塚原敬史(trimdesign)
2015年3月出版
ISBN:978-4-86541-038-9
『月夜』
鈴木育郎写真集 日販アイ・ピー・エス
定価:3.000円+税|257×182mm
192ページ|ソフトカバー
2018年
ISBN:978-4-86505-129-2