フランシス・ハール写真集

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Francis Haar (フランシス・ハール)「Mermaid of Japan」Kaname Shobo(要書房、東京)、1954年。

2021年2月14日(日)まで入江泰吉記念 奈良市写真美術館で開催されている『マーク・ピアソン フォト・コレクション展「忘却の彼方へ-日本写真の黎明期から現在まで」(第一章日常生活1850-1985)』の中でも紹介されているフランシス・ハールが、1940年代から50年代にかけて日本各地の海女の姿を捉えた写真集である。フランシス・ハールは 1908年ハンガリー生まれの写真家で、館内で配布されている作家案内には、日本国際文化協会から招聘されて来日し、1940年から42年にかけて東京にスタジオを開き、戦後も56年まで日本で活動を続けたと伝えている。会場のちょうど真ん中あたりの3方向の壁に「日本の人魚 海女」と題された24点の展示があるが、石川県能登半島沖50kmに位置する舳倉島で捉えられた海女の姿や、房総半島の白浜や御宿、または三重県伊勢志摩であろうかと思われる海女の生活などを捉えている。あまりにもあっけらかんとした半裸の海女たちの姿にぎょっとされた方も多いだろうが、当時の習慣としては当たり前のことであったろうと思われる。本書は日本で捉えられた海女の写真としては大変古いもので、同じく舳倉島の海女の姿を捉えたイタリア人写真家フォスコ・マライーニ (Fosco Maraini 1912-2004、著書に「海女の島 舳倉島」未来社、1964年がある)よりも早い年代である。1900年代初めの明治の頃より、ゴードンスミスなどいくらかの外国人たちが日本国内を廻り、日本の信仰や祭り、芸能や習慣、生活などを調査し資料として持ち帰った写真や風景画が反響を呼び、以降多くの外国人カメラマンが来邦する。大正期以降、日本人の写真家も多く海女の姿を捉えており、木村伊兵衛、岩瀬禎之、土門拳、林忠彦、芳賀日出夫、濱谷浩、浦口楠一、中村由信、中村立行(生年順)などの作品にも見られる。本書には71点の作品とともに英文で解説分があるが、マーク・ピアソンコレクションにはこれ以外の作品が多く含まれており、大変興味深くそして貴重であると言えるだろう。フランシス・ハールはこの他にも先斗町の芸者や日本の様々な習俗や生活を捉えたが、その後ハワイに移住したこともあり、作品の多くはあまり世に出ることがない。ぜひとも会期残り少ない中だが、この機会に奈良を訪れていただきたいと思うのである。