山内道雄写真集

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山内道雄 Michio Yamauchi「上海一九九三」プレイスM、1995年。「香港1995-1997」蒼穹舎、1997年。

山内さんは1950年愛知県西三河(現豊田市)生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。1982年東京写真専門学校(現東京ビジュアルアーツ)の夜間部卒業、同年自主ギャラリーCAMPに参加、写真家の森山大道氏に師事する。1987年より自主ギャラリー「プレイスM」を主宰。この頃から日本のみならずアジアの主要都市を撮影する。1997年山内道雄写真展「HONG KONG 英領香港」(銀座ニコンサロン)により第22回伊奈信夫賞、2011年「基隆」(グラフィカ編集室、2010年)にて第20回林忠彦賞、2015年「DHAKA 2」(禅フォトギャラリー、2015年)にて第35回土門拳賞を受賞する。

香港にとって1997年は大変重要な年である。香港の主権がイギリスから中国に移譲されたのが1997年7月1日、作家は返還前の1995年に一度、返還間際の1996年に一度、そして返還が実施された1997年5月から7月にかけて香港を訪れて撮影している。現在にも共通するアイコン的な場所はすべて撮影されており、当時の香港の様子をまざまざと伺い知れるとともに、月日の推移を感じずにはいられない。一方上海も急激な変化の中にいた。1992年頃から現在の上海の中心地、浦東新区(ほとうしんく)の開発が始まっており、街のカタチが変貌していく真っただ中であった。作家が訪れた1993年の上海は人々もまたその変化に否応なく流されているようで開拓地の様相を呈していただろう。ストリートスナップであるこの2つの写真集には多分にポートレイト的な表現も多い。人を撮るのなら人のすべてまでも撮ってしまおうという作家の気概が感じられる。人が写っているようで街が写っていて、その逆もまた同じである山内さんの写真はそれゆえに不思議なのである。そしてそれは東京を撮る時とはおそらくベクトルが少し違うのではないかと思える。禅フォトギャラリーで山内さんにお会いした時はとにかくうれしかったが、写真集持ってます。としか言えなかったのが残念である。