中井菜央写真集

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中井菜央 Nao Nakai「繍」赤々舎、2018年。

中井さんは滋賀県生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。2008年第30回写真「ひとつぼ展」入選、第4回名取洋之助写真賞奨励賞、2010年第2回写真「1 _WALL展」入賞。現在はフリーランスの写真家として雑誌、広告、ジャケット、ライブ撮影など幅広い分野で活躍する。2019年4月京都グラフィー・KG+2019で写真展「繍」を開催(galleryMain)。近年は雪をライフワークとし、2015年からは新潟津南町の独特な雪の造形に魅せられて、作家自身「雪の中に町がある」と言う豪雪地に通いつめて撮影を続けている。現在は住まいを期間限定で東京から津南町に引っ越している。

本書は作家自身の愛して止まない祖母がアルツハイマーに冒されて、病状が進行していく状況に接し、自身がこれまで抱いてきた祖母に対するイメージや記憶、さらには祖母との関係性が崩壊していくという事実に、一時は悲観し戸惑うが、やがてそんな祖母をあえて撮影するという行為の中で見つけた新たな発見を通して、もう一度自身に今ここにある祖母という存在は何であるか?ということを問うた厳かなまでの叙事詩であり、自身を新たな境地に導き出してくれるきっかけとなった金字塔的な写真集である。「繡」とは糸で縫い取ること。バラバラになった一つ一つの写真を組み合わせながらたくさんの生命や、自然にあるものの輝きをも一つの写真集に縫い込んだのである。「繍」に送り仮名をつけると「繍しい(うつくしい)」とも読む。表紙に写るものは何かの風習なのだろうか?アートディレクションは町口景さん。以下は巻末の中井さんの文章よりの抜粋です。

「世界は過去から未来に広がり続ける時間と言う無地の布に、結び目で連なる『個の存在』という糸が縦横無尽に張り巡らされているようなものです。永遠の広さの布地と、無数の結び目と、無限の交錯する糸。私たちは、そのごく一部に意味を重ねて、それぞれのイメージでそれを捉えているにすぎません。(中略)光り輝くことでもなく、闇に沈むことでもない、ただそこに在るということ。私はそれをポートレートにしようと思いました。」