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本橋成一 Seiichi Motohashi「新版 炭鉱<ヤマ>」海鳥社、2015年。
本橋さんは1940年生まれ、東京都中野区東中野出身の写真家であり映画監督である。1960年より写真を始める。1965年東京総合写真専門学校在学時に、記録文学作家の上野英信さんの著作「追われゆく鉱夫たち」(岩波新書、1960年)に感化され、卒業制作として九州の筑豊(福岡県)地域を訪ねた。その後も炭鉱の撮影を繰り返し、1968年「炭鉱〈ヤマ〉」(現代書館)で、第5回太陽賞を受賞。1976年からはテントで生活し全国を廻るサーカス団を取材し、1980年「サーカスの時間」(筑摩書房)を刊行。同名の個展を新宿ニコンサロン/東京で開催。1980年からは出稼ぎ労働者たちが行き交うターミナル駅である上野駅を舞台に、1983年「上野駅の幕間」(現代書館)を刊行。1988年「魚河岸 ひとの町」(晶文社)、1989年「サーカスが来る日(リブロポート)を刊行。1991年からはチェルノブイリ原発とその被災地ベラルーシに通い、汚染地で暮らす人々を写した。1993年写真絵本「チェルノブイリからの風」(影書房)を刊行。1995年刊行の「無限抱擁」(リトルモア)で日本写真協会賞年度賞、第7回写真の会賞を受賞。1998年「ナージャの村」(平凡社)などで、第17回土門拳賞を受賞する。同名の初監督ドキュメンタリー映画は文化庁優秀映画作品賞受賞。2002年には映画作品第二作目となる「アレクセイと泉」で、第52回ベルリン国際映画祭ベルリナー新聞賞、及び国際シネクラブ賞、第12回サンクトペテルブルグ映画祭グランプリなどを受賞する。2013年には80年代から取材を繰り返していた大阪 松原の食肉処理場の労働に着目した写真集「屠場〈とば〉」(平凡社)などで、日本写真協会賞年度賞を受賞。その他の写真集に、「アレクセイと泉」(小学館、2002年)、「バオバブの記憶」(平凡社、2009年)、「昭和藝能東西」(オフィスエム、2010年)などがある。またその他の映画に「ナミイと唄えば」(2006年)、「バオバブの記憶」(2009年)、「アラヤシキの住人たち」(2015年)があり、映画プロデュースに「水になった村」(2007年)、「祝の島」(2010年)、「ある精肉店のはなし」(2013年)がある。その他著作や個展、グループ展多数。
本書は作家のファースト写真集である「炭鉱<ヤマ>」(現代書館、1968年)を増補改訂し、新版として海鳥社から刊行された。殖産興業の推進や八幡製鐵所の設立などを背景に、大手資本が進出した筑豊炭田の開発は急速に伸びたが、戦後エネルギー革命が進展し石炭から石油への移行が進むと次第に荒廃していった。作家が筑豊を訪れたのはまさにこの頃であった。いわゆる社会の暗部に光を当て、「いつもちょっと哀しく、ちょっとおかしく、ちょっと情けない人間の姿(本書内上野朱氏語る)」にフォーカスを当て、そこに生きる人々の原像を切り取る作家の仕事の、まさに出発点がここにある。