西村多美子写真集

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西村多美子 Tamiko Nishimura「猫が…(Kittenish...)」禅フォトギャラリー、2015年。

西村さんは1948年東京生まれの写真家である。1969年東京写真専門学院(現東京ビジュアルアーツ)卒業。在学中に唐十郎率いるアングラ劇団「状況劇場」の舞台に通い、麿赤児や四谷シモンなどを撮影。後に「実存1968-69状況劇場」(グラフィカ編集室、2011年)として刊行する。1970年「カメラ毎日、8月号」の「4 Girl Photographers」に「猫が…」を発表。1972年森山大道の「蜉蝣」(芳賀書店)の風景写真を担当する。後年インタビューに答えて「たまたまプロヴォークの同人であった、多木浩二さんの事務所でアルバイトをしていたこともあり、写真を気に入って下さった」と述べている。1973年日本各地を旅し撮影したものを、ファースト写真集「しきしま」(東京写真専門学院出版局)として刊行する。70年代中盤から80年代にかけても日本各地を旅し、また娘を連れて東京なども歩いて撮影している。90年代以降は、近代化画一化された日本を飛び出して、ヨーロッパや南米などを撮影。2005年「熱い風」(蒼穹舎)を刊行する。その他の写真集に「憧景」(グラフィカ編集室、2012年)、「しきしま 復刻新装版」(禅フォトギャラリー、2014年)、「舞人木花咲耶姫-子連れ旅日記」(禅フォトギャラリー、2016年)、「旅人」(禅フォトギャラリー、2018年)、「旅記」(禅フォトギャラリー、2019年)、「続 (My Journey II. 1968-1989)」(禅フォトギャラリー、2020年)などがある。その他個展、グループ展多数。

本書は作家の得意とする旅の記録などにみる、私的なスナップショットを粒子の粗いハイコントラストのモノクロ写真で捉えた作品群とは少し異なっているようだが、対象への眼差しは根底の部分では共通する部分があるように思える。本書の巻末に「カメラ毎日、8月号」(1970年/毎日新聞社)の記事が紹介されているので掲載したい。

「『見られているな』と感じて
肌寒い雨の夜、友だちが泊まり にやって来た。薄明かりの中に沈黙が漂い、頭の上からじわじわと重苦しい長い夜の予感がひろがりはじめる。なぜか真っ正面から友だちを凝視することに一種 のもどかしさ、うとましさ、いらだたしさを感じる。いつでも逃げ出せる。絶対にここではないと思い始めた時、不思議に私の内部で何かが溶解をはじめ、たとえば女の部屋に飼われた猫とか、台所に住みついた虫の視点に、ふと近づいたような気分がしてくる。暗闇の中で、または、まばゆい陽光の下で、突然「見られているな」と何かの視線を感じることがある。それは決して人間の視線だけとは限らない。得体のしれない他者の視線が、私自身に、確かにまつわりついているのではないかと思い続ける。それは結局、自分で自分自身を見つめていること、私自身にこだわっていることの逆説にほかならないのである。私は、私が女であることを放棄して写真を撮ったところで、それは私にとって何のリアリティも持たないと思う。それは、ことさら女を意識して写真を撮るという意味では決してなく、生まれた時から男が男であるように、私が女であるということからしか、何も始まらないということだ。」