有田泰而写真集

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有田泰而 Taiji Arita「First Born」赤々舎、2012年。

竹芝駅のほど近く青い壁が印象的な鈴江倉庫ビルの中にかつてGallery 916はあった。2018年ビル取り壊しによる閉廊までの6年間、写真ギャラリーを主催したのが写真家の上田義彦さんである。上田さんは若い頃少しの間アシスタントを務めていたこともあり、2011年にアメリカで亡くなられた有田泰而さんのネガを預かって2か月の間暗室に閉じこもってプリントしたものが本作のベースとなっている。

有田泰而さんは1941年小倉生まれ、東京綜合写真専門学校で写真を学び、その後日本デザインセンター写真部に所属、広告写真を多く手掛ける。のちに油絵や彫刻など幅広い分野で才能を発揮した晩年はアメリカで活動していた。

本書は70年代初頭にカナダ人である最初の妻と生まれたばかりの男の子を被写体としたファミリー写真であるが、作品には作家の感性が色濃く反映されている。演出的な構図が軽やかで時代を感じさせない何かがあり、モノクロ写真とカラー写真との差異もほどよく感じさせない。世に出なければ幻であったろうし、こうして纏まることは奇跡で、傑作と言って間違いないだろう。