成田舞写真集

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成田舞 Mai Narita「ヨウルのラップ (A Wrap of Youru」リトルモア、2011年。

成田さんは東京生まれ山形育ち、現在は京都を拠点に活動する写真家である。京都造形芸術大学情報デザイン学科で写真を学ぶ。2009年「ヨウルのラップ」にて第2回littlemoreBCCKS写真集公募展大賞と川内倫子賞を受賞。2010年同展受賞作品展覧会(VACANT、東京)を開催。本書は大賞受賞作として翌年リトルモアより出版された。2018年坂田佐武郎氏とともにグラフィックデザインや写真撮影を行う法人「株式会社ねき(Neki inc.)」を創業。最近では2020年2月にグループ展「境界線を遡行する」(VOU、京都市下京区)に参加し、自身の出産に起源をもつ2つのスライドショー「slideshow she」「slideshow he」と、300ページにも及ぶ写真集「skin separates secret」からなる展示を行った。 2011年4月、当時写真集刊行に伴いウェブギャラリー「Space Cadet」のインタビューに答えて「ヨウルのラップに関しては、物語みたいなものをにおわせたいなという気持ちがあって。1990年代、それこそ自分が中学生だったくらいの現代神話、日本昔ばなしみたいなものを作りたくて。もしもまだ、もののけがいて変な超常現象が起こるとしたら…とか、現代の神様や闇から出てくる妖怪なんかが居るとしたらそれは一体どんなだろうと想像しながら作りました。」と語っている。

ふとした日常の風景の中に現れた何かしらの符号(しるし)のような景色を作家自身の視線で丁寧に切り取っている。あたかもそれが昔話や神話のような世界への入り口なのだとしたら、我々が暮らすこの世界はなんと多面的で複合的であると言わなくてならない。もしかしたらそもそも自分が見ている世界は他人のそれとは全く違うのではないかと思えるほど、この世界は曖昧なものであると教えられているようである。非常に不穏だが見れば見るほどますます作家の世界観にはまり込んでいくようで、踏み込まなくてはいられない人間の根本的な潜在意識や本能のようなものを考えずにはいられない。B5変形サイズ。断ち切りの写真とそうでない不均一な白場が残る写真が並ぶデザインが秀逸である。造本は松本弦人さん。

ウェブギャラリーSPACE CADETインタビュー
http://spacecadet.jp/interview/narita.html