石川竜一写真集

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石川竜一 Ryuichi Ishikawa「絶景のポリフォニー / A Grand Polyphony」「okinawan portrait 2010-2012」赤々舎、2014年。

石川さんは1984年沖縄県宜野湾市生まれ、現在も沖縄を拠点に活動をしている。2006年沖縄国際大学社会文化学科卒業。中学時代に父親の勧めで始めたボクシングで活躍する(2002年国体3位)も、高校卒業と同時に辞めてしまう。大学入学後、生活環境の変化からか体調を崩し無気力なまま街中を彷徨う日々、ある時リサイクルショップの主人に声をかけられ、千円で買ったオリンパストリップ35で写真を撮るが、現像から戻ったネガには何も写っていなかった。カメラについてさらに知識を深めるが、やがてカメラ自体が壊れていたことを知る。ならば今度は一番高いカメラで写真を撮ろうとバイトを始め、デジタルのハッセルブラッドを購入する。2008年前衛舞踊家 しば正龍の付き人を務め自身も舞台に立ちながら写真を撮り始める。2010年写真家 勇崎哲史に出会い、写真に関するあらゆる分野の手伝いをしながら知識を学ぶ一方、氏の勧めで若者を中心にポートレート撮影を始め、個展を開催し自費出版の写真集を刊行する。2011年東松照明デジタル写真ワークショップ3期生に参加。2012年「okinawan portraits」で第35回キヤノン写真新世紀佳作。2014年写真集「絶景のポリフォニー」「okinawan portrait」を赤々舎より発売。2015年「絶景のポリフォニー」で第40回木村伊兵衛写真賞を受賞(同時受賞は「明星」の川島小鳥さん)、日本写真協会新人賞、沖縄タイムス芸術選奨 奨励賞を受賞する。

その他の写真集に「adrenamix」(赤々舎、2015年)「CAMP」(SLANT、2016年)「okinawan portraits 2012-2016」(赤々舎、2016年)。私家版写真集に「SHIBA 踊る惑星」(2010年)、「しば正龍 女形の魅力」(2013年)「RYUICHI ISHIKAWA」(2014年)がある。

主な個展、グループ展に、2010年「脳みそポートレイト」(沖縄県立博物館・美術館)、「瞑」ギャラリーoMac、沖縄、コンテンポラリーダンスにて)、2011年「東松照明デジタル写真ワークショップ終了写真展、沖縄タイムズビル)、、2012年「沖縄本土復帰40周年写真展 OKINAWA 0 POINT」、2013年「FRAGMENTS3」(沖縄県立博物館・美術館、コンテンポラリーダンスにて)、2014年「森山大道ポートフォリオレビュー展」( 沖縄県立博物館・美術館)、「RYUICHI ISHIKAWA」(gallery ラファイエット、沖縄)、「show case #3」(eN arts、京都)、「zkop」(アツコバルー、東京)、「 okinawan portraits 2010-2012」PLACE M(東京)、「絶景のポリフォニー」銀座ニコンサロン。2015年「okinawan portraits 2010-2012」The Third Gallery Aya(大阪)、「野生派宣言!」(ongoing、東京)、「A Grand Polyphony」Galerie Nord(パリ)、2016年「考えたときには、もう目の前にはない 石川竜一展」(横浜市民ミュージアムあざみ野)、「CAMP」(WAG gallery、東京)、「CAMP & OKINAWA」(Have A nice GALLERY、台北)、「六本木クロッシング2016展:僕の身体(からだ)、あなたの声」(森美術館、東京)、「BODY/PLAY/POLYTICS」(横浜美術館)、2017年「OUTREMER/群青」(アツコバルー、東京)、「日産アートアワード2017 ファイナリスト5名による新作展」(BankART Studio NYK、横浜)、2020年「作家と現在 ARTISTS TODAY」沖縄県立博物館・美術館)などがある。

本書は後発の「adrenamix」とともに作家自身の20代の記録である。どちらも中判デジタルカメラで撮られており、インクの乗りが甚だしいところは沖縄本来の色でもあるが、作家自身のレタッチに寄るところも大きいのだろう。スナップ、ポートレートとして2冊に分けられているが2つの写真集は双子のような関係にある。この中に写る当たり前の沖縄の若者達にも、マイノリティーな世界で生きる人々にも、作家本人のナチュラルな眼差しが感じられる。格好悪くてもがむしゃらに生きた、まさしく何者でも無かった空っぽの時代を潜り抜けてきた作家の心の中に出来たぽっかりとした確かな器が、多くの人々のまるごと全部を受け入れていく様である。そんな写真集なのかも知れない。