インベカヲリ写真集

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インベカヲリ★ Kawori Inbe「やっぱ月帰るわ、私。 / Time to go back... to the moon.」赤々舎、2013年。

インベさんは東京生まれの写真家であり、ノンフィクションライターである。短大卒業後の2001年頃より独学で写真を覚え、主にフィルムカメラで撮り始める。編集プロダクション、映像制作会社勤務を経て2006年よりフリーとなる。最初はもっぱらセルフィ―で作品を撮っていたが、やがてホームページ上でモデルを募集「都内限定、女性、メールに自分はどういう人間だと思うか等の自己PRを書いて、顔写真を添付してお送りください」とした。応募者を前にノートを広げ、ある時はカウンセラーのように症状を聞き、ある時はインタビュアーになって取材を行う。そして改めてセットアップしてポートレート撮影を行い、後日ウェブ上にアップして行った。そんな作業を7年ほど続け、2007年に個展「倫理社会」を新宿ニコンサロンで開催し、2008年ニコンサロンJuna21写真展年度賞三木淳賞奨励賞を受賞する。その後、2008年「Vice photo show」グループ展(ロサンゼルス)を皮切りにバルセロナ、ソウル、ミラノなど国内外での展示を続けた。2013年最初の写真集「やっぱ月帰るわ、私。」を赤々舎より刊行、第39回木村伊兵衛写真賞にノミネートされる。その後もさらに製作を進め、2018年「理想の猫じゃない」を刊行、第43回伊奈信男賞、2019年日本写真協会新人賞を受賞する。その他の写真集に『ふあふあの隙間』①②③(赤々舎)。共著に「取り扱い注意な女たち」 (あおば出版、2006年、出町つかさ)、「ノーモア立川明日香」(三空出版、2013年、小川善照)、 忌部カヲリ名義の著書に「のらねこ風俗嬢―なぜ彼女は旅して全国の風俗店で働くのか?―」(新潮社電子書籍)などがあり、「声優のアイコ事件」を取材したルポを「新潮45」(現在は休刊)に寄稿するほか、WEBマガジンNOTEのよみものどっとこむに寄稿を続けている。また歌手のスガシカオのアルバム「THE LAST」のジャケット写真を担当するなど多彩である。

本書は一般女性の人生を聞き取り、その表面的なものを排除しても内面にある「生きて来た過程で生まれるオリジナリティー」を写真で表現したポートレート作品であるが、言わばインベカヲリの処方箋である。あくまでもフィクションの中で形成された架空の主人公に身を置き換えられたノンフィクションな現実を、別の形として昇華しようという新たなポートレートのスタイルである。本書のタイトルは「カメラの前で自分の根源にある心象風景を晒し、世間のうねりから抜け出していくさまを『竹取物語』に重ねて表現した。(巻末文章より)」と言う。

作品にはインパクトのあるタイトルがあり、最新作ではテキストをつけた表現や、デジタルカメラでの撮影など、新たな表現の領域は広がっていくばかりだ。個展の期間中は結構な確率で会場にいらっしゃるが、その理由の多くはサービス精神であるのは間違いないと思うが、実のところ会場に来ている観覧者を実はじっっと観察しているようで、僕の場合はいつもかなりドキドキしてしまう。「人の人生を聞くのは楽しい。私の興味はまずそこにある。(巻末文章より)」と言われてひるまない人間などいないのである。