岩根愛写真集

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岩根愛 Ai Iwane「キプカ/KIPUKA」青幻舎、2018年。

岩根さんは東京都中野区出身の写真家である。3人弟妹の長女として生まれたが、複雑な家庭事情のため中学校にはまともに行かず、英会話の勉強とアルバイトだけをして、1991年単身渡米、北カルフォルニアのペトロリアハイスクールに留学する。全校生徒22人の自給自足、自家発電の生活の中で様々な生活の知恵を学ぶ一方、独学で写真を始める。帰国後はカメラマンのアシスタントを経て1996年にフリーへ。雑誌「ecocolo」(エスプレ)の連載やCDジャケットの撮影等の仕事をしながら、2010年からノンフィクション・ライターの藤野眞功さんとともにフィリピンのモンテンルパ刑務所を取材、日本人でありながらギャングのボスである人物のポートレイト撮影を行う、2011年にはロシアのニクーリンサーカスを、2012年には台湾の三峡台北榮民之家(国民党軍の退役軍人の家)など、世界の特殊なコミュニティでの取材に取り組む。

本書は2006年に訪れたハワイで知り合った日系2世の人々との交流から、ハワイにおける日系文化に強い関心を抱き取材を始めた。夏の3か月に踊る「Bon Dance(盆踊り)」で踊られている踊りや歌のルーツが、実は相馬盆唄を元歌にした「フクシマオンド」であることを知り、ハワイと福島とをつなぐ人や文化の交流をテーマとして、以後12年におよぶ取材を続けた。東日本大震災後の2011年夏、被災地福島県の帰宅困難区域 相馬市の高校生たちがホームステイに招かれたマウイ島を取材、そこで生演奏された「フクシマオンド」が聞こえるや、走り出し踊りはじめた高校生たちを見て衝撃を受ける。「もう盆踊りはできないと思っていたから、まさかハワイに来て踊れるとは思わなかった!」と息を切らしながら、心の底から盆踊りを楽しむ若者たち、聴くだけで反射的に体が反応してしまう盆唄のパワーについて、なんとかこのことを形にしたいと決意する。帰国後福島県三春町に撮影の拠点を置き取材を続けた。2018年11月ファースト写真集「KIPUKA」を刊行。本作と個展「Fukushima Ondo」Kanzan Gallery(2018.11-12)にて、2019年第44回木村伊兵衛写真賞を受賞する。また 第44回(2019年度) 伊奈信男賞を受賞し、東京、大阪のニコンサロンで各々個展が開催された、その他の著書に、絵本「ハワイ島の ボンダンス」(福音館、2016年)、「キプカへの旅」(太田出版、2019年)があり、2018年には自身が企画、プロデュースしたドキュメンタリー映画「盆歌」が公開され、ハワイ ホノルルでも多くの人の共感を得る。「キプカ」とは溶岩流の焼け跡に生える植物、再生の源となる「新しい場所」を意味するハワイ語である。
情報を下記から掲載させていただきました。

Photographer's File #10:岩根愛
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/502864.html