森康志写真集

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森康志 Yasushi Mori「ハットリくん/Hey! Hattori」リブロアルテ/Libro Arte、2018年。

森さんは1980年神奈川県生まれの写真家である。東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画を修了。写真スタジオ勤務を経て、写真家 半沢健(Takeshi Hanzawa)氏に師事、その後フリーの写真家として東京を拠点に活動する。これまでにadidasや日産自動車などの広告写真や、きゃりーぱみゅぱみゅやスチャダラパー、フジファブリックなどのアーティストのポートレイトを数多く手がけている。2018年ファースト写真集「ハットリくん」を発表。同年キチジョウジギャラリーにて同名の個展を開催。グループ展に「fotofever 2018」 Carrousel du Louvre, Paris、「Neko Project」 IBASHO gallery, Antwerp /Galerie ARGENTIC, Paris、La Fontaine Obscure, Aix en Provence / Olivier Bourgoin, Marseilleがある。2018年「ハットリくん」でNeko Project 最優秀賞受賞。

ちなみに「ハットリくん」はシャム系の猫である。たぶん9歳くらい。東日本大震災で福島県双葉町から疎開していたが、たまたまボランティアで福島を訪れた写真家の森さんに縁あって引き取られる。ほかの猫たちと同じように箱に入れられていたが、布に隠れるようにくるまっていた子猫を「自分と通じるシンパシーを感じた」という理由で引き取られた。

森氏はこう記している。

「わたしの家にはハットリくんという猫がいます。ハットリくんは、2011年の東日本大震災の時、福島の双葉町から疎開してきました。わたしは当初、猫の写真なんてさほど興味がなかった。しかしハットリくんと一緒に過ごしていると、孤独と同時に漂う愛しさに徐々に惹きつけられていきました。 ある日、フィルムの最後の数コマに写した写真を見た時、自分にそっくりな顔をしたハットリくんがそこにはいました。フィルムのボロボロの粒子の向こうから命をへばり付けるように、じっと見つめている、その瞳。故郷を遠く離れ、すっかり飼い慣らされてしまった本能が、わたしだけに垣間見せる野生の表情がそこにはありました。

『愛するものを撮ること』

小さな窓の向こうに流れる景色にわたしたちは身を任せ、いつまでも夢中のまま写真を撮っていたい。でも、猫の時計はすごく速いスピードで進むから、わたしを追い越して先に止まってしまうことも知っている。わたしはその時までこの不思議で捕まえどころない生き物を、愛し、わたしにしか見えないハットリくんを捕まえたい。この写真集は、わたしとハットリくんが歩んできた愛の物語です。」

本書はよくあるかわいくて甘ったるいだけの猫写真集ではない。そこには本当に「ハットリくん」は飼い主である森さんのことを愛しているのかと疑ってしまうほど、時には激しく憤っているようにも見えるカットがあり、時には寂しげで、うつろで、頼りなく、そして飢えている。でもそのいずれもが作家自身の眼で捉えた「ハットリくん」そのものの姿であり、けなげに生きているその姿に投影した自身の姿なのかもしれない。ならば過分にしてセンチメンタルだが、そのあたりの味付けがちょうどいい。