林志鵬写真集

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林志鵬(Lin Zhipeng、 aka.No.223)「123 Polaroids」スーパーラボ、2021。

林志鵬(Lin Zhipeng)は、1979年中国広東省生まれの写真家である。 aka.No.223と名乗るのはウォン・カーウァイ監督の映画「恋する惑星」(重慶森林、Chungking Express)の登場人物からとっている。これまでにたくさんの自費出版を含む写真集を刊行し、精力的に展覧会も開催しているが、近くにはAkio Nagasawa Gallery Aoyamaで開催された「Flowers and Fruits」(T&M Projects)出版記念の個展がある。

本作は精力的に写真集出版を手掛ける東京の出版社スーパーラボからリリースされているが、その名の通り全編ポラロイドカメラで撮影された123枚のイメージで構成されている。撮影された時代も撮影された場所も様々であるが、2000年代の初頭から現在まで、広州などの中国各地やチベット、東南アジアや日本、ヨーロッパなどを旅する中で撮られた戯れに近い軽い記録写真のようなショットから、煽情的でエロティックな独特な作品世界までもが収めてあり、ポラロイド写真というくくりで見る林志鵬の写真世界が味わえる作品集となっている。小さくてかわいい写真集であるが実に内容の濃い作品である。W130 mmx H20mm、120 頁、上製本、表紙は2種類あり、スーパーラボのサイトでは先着50冊にサイン入りのフォトカードが付いてくる。

石毛優花写真集

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石毛優花 Yuka Ishige「Calm Soul」自主制作、2021年。「film or die」自主制作、制作年不詳。

2021年5月に開催された個展 金影に合わせて発表された作家自身16冊目の写真集「Calm Soul」 には、最近の写真63点が収められている。

最後の最後まで悩み抜いた展示までの期間であったと振り返っているが、展示は精錬された刃物のように澄み渡っていて、全ての声や音、感情などをあえて消し去ったような静かな展示であった。対して写真集は祖父との最後の日々や病室でのやりとり、そして祖父の死を軸に、これまでの自身に思いを馳せ、現在いる場所をぼんやり見つめ、少し先に見えたように思える未来をも映し出しているようで、長く普通にありのままに語る後書きの文章とともに雄弁に伝えてくる。自身の作家人生の中で確実にターニングポイントとなる作品であるように思える。

もう一冊は作家の師である写真家 鈴木育朗氏との共著「film or die」である。当時鈴木氏がライフワークにしていた36枚撮りフィルム1本を撮影した順番にまとめた写真集「film or die」を踏襲して、見開きの左側を鈴木氏が、右側を石毛氏が担当したというもの。展示会初日にいきなり現れたと言う鈴木氏はこの写真集を見つけてサインをして行ったと言う事でした。

フランシス・ハール写真集

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Francis Haar (フランシス・ハール)「Mermaid of Japan」Kaname Shobo(要書房、東京)、1954年。

2021年2月14日(日)まで入江泰吉記念 奈良市写真美術館で開催されている『マーク・ピアソン フォト・コレクション展「忘却の彼方へ-日本写真の黎明期から現在まで」(第一章日常生活1850-1985)』の中でも紹介されているフランシス・ハールが、1940年代から50年代にかけて日本各地の海女の姿を捉えた写真集である。フランシス・ハールは 1908年ハンガリー生まれの写真家で、館内で配布されている作家案内には、日本国際文化協会から招聘されて来日し、1940年から42年にかけて東京にスタジオを開き、戦後も56年まで日本で活動を続けたと伝えている。会場のちょうど真ん中あたりの3方向の壁に「日本の人魚 海女」と題された24点の展示があるが、石川県能登半島沖50kmに位置する舳倉島で捉えられた海女の姿や、房総半島の白浜や御宿、または三重県伊勢志摩であろうかと思われる海女の生活などを捉えている。あまりにもあっけらかんとした半裸の海女たちの姿にぎょっとされた方も多いだろうが、当時の習慣としては当たり前のことであったろうと思われる。本書は日本で捉えられた海女の写真としては大変古いもので、同じく舳倉島の海女の姿を捉えたイタリア人写真家フォスコ・マライーニ (Fosco Maraini 1912-2004、著書に「海女の島 舳倉島」未来社、1964年がある)よりも早い年代である。1900年代初めの明治の頃より、ゴードンスミスなどいくらかの外国人たちが日本国内を廻り、日本の信仰や祭り、芸能や習慣、生活などを調査し資料として持ち帰った写真や風景画が反響を呼び、以降多くの外国人カメラマンが来邦する。大正期以降、日本人の写真家も多く海女の姿を捉えており、木村伊兵衛、岩瀬禎之、土門拳、林忠彦、芳賀日出夫、濱谷浩、浦口楠一、中村由信、中村立行(生年順)などの作品にも見られる。本書には71点の作品とともに英文で解説分があるが、マーク・ピアソンコレクションにはこれ以外の作品が多く含まれており、大変興味深くそして貴重であると言えるだろう。フランシス・ハールはこの他にも先斗町の芸者や日本の様々な習俗や生活を捉えたが、その後ハワイに移住したこともあり、作品の多くはあまり世に出ることがない。ぜひとも会期残り少ない中だが、この機会に奈良を訪れていただきたいと思うのである。

井村一巴写真集

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井村一巴 (Kazha Imura、いむら・かずは)「wonderland」bushbeanstudio、2009年。

井村さんは大阪府生まれ、大阪在住の写真家である。1996年 写真を撮り始める。1997年からはコンビニのコピー機を使い制作したブック「paper」を刊行し、セルフポートレート写真や文章を発表し始める。2000年上野学園大学短期大学部音楽科フルート専攻卒業。2001年より2003年まで間、年1回一ヶ月間「週末写真館」を開催、毎週来場者のポートレイトを撮影し、夜を通してプリントして展示し、532枚のポートレイトを制作する。2002年 グループ展 寿限無 -cloning- (ART BY XEROX主催/小山登美夫ギャラリー、東京)に出展。2004年 初個展 井村一巴[セルフポートレイト]展 (ギャラリーときの忘れもの, 東京)を開催。2007年 井村一巴[セルフポートレイト]展 (ギャラリーときの忘れもの, 東京)の展示では、プリントした印画紙にピンで引掻いたピンスクラッチ作品100点を初めて発表するとともに、作品集「Imura Kazha Plays Imura Kazha」を刊行する。2010年 finally we are no one (calo bookshop and cafe, 大阪)。2014年 BoneFree (アルピーノ主催/ギャラリー多羅葉, 埼玉)。2015年 physical address (みうらじろうギャラリー, 東京) ・whereabouts (STORE FRONT, 東京)。2016年 now/here (Gallery キットハウス, 大阪)と個展を開催していく。その他グループ展やアートフェアーにも多く出展。最近では、2019年4月 駐日スペイン大使館で開催された KIMONO-JOYAに出展している。

本書はbushbeanstudio名義・ゼロックスコピーブックレット・A4・104ページに、ピンスクラッチ入りオリジナルプリント(キャビネサイズ)2点を封入し、限定88部で刊行された写真集である。本書を透明のジップの付いたビニールの中に発見するまで、随分と長い時間が過ぎてしまっていたが、当時どこかの本棚で見つけた時の、心の高鳴りや驚きを思い起こさせられた。写真集とはまれに時間も空間も一気に超えて、読む者の心を温めてくれるものだということを改めて思い知らされるのである。※写真集はあえて背面を表に撮影させていただきました。

下記サイトに2007年のギャラリーときの忘れものでの個展の様子と、美術ライター岡部さんによる解説が面白いです。

殿村任香写真集

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殿村任香 Hideka Tonomura「母恋 ハハ・ラブ」赤々舎 、2008年。

殿村さんは1979年兵庫県神戸市生まれの写真家である。2000年ビジュアルアーツ専門学校大阪 放送・映像学科卒業。2002年より写真を撮り始める。2003年初個展「渦」(ビーツギャラリー、大阪)、2004年「我家の幸い家庭ーその時は、死んでもいいと思ったよー」(ニコンサロン東京、大阪)。「殿村任香写映劇 浄瑠璃×写映」(Uplink Factory,渋谷)、2005年「殿村任香写映劇-〇三〇五-」(Up Link、渋谷)、2007年「ビバ・ホステスライフ」(クラブ銀子、歌舞伎町)と作品を発表していく。2008年 家族の赤裸々な日常を捉えたファースト写真集「母恋 ハハ・ラブ」を赤々舎より刊行する。2013年 新宿歌舞伎町でホステスとして働いていた時代に夜の人々を撮った「ゼィコードゥミーユカリ」をZen Foto Galleryより刊行する。その他の著作に「orange elephant」(Zen Foto Gallery、2015年)、「cheki」(Morel Books,London、2018年)、「焦がれ死に die of love」(Zen Foto Gallery、2018年)、最新刊に「SHINING WOMAN #cancerbeauty」(Zen Foto Gallery、2020年)がある。また、国内外で多くの個展を開催し、2021年春パリのヨーロッパ写真美術館で開催予定の「Love Songs」にも作品を出品予定である。現在「命の芯こそ、美しい」と、自身の子宮頸がん手術の経験から、がんと闘う女性のポートレートを撮影する「SHINING WOMAN PROJECT(シャイニング・ウーマン・プロジェクト)」に取り組んでいる。

本書を印刷した京都の印刷会社 株式会社サンエムカラーの解説文に「闇との不倫。荒木経惟氏による帯文の言葉です。モノクロームの中から浮かび上がる母の赤裸々な姿。女として、母としての。モノクロの世界と対峙しつづける写真家、殿村任香の処女写真集。」「印刷としては、黒にこだわった魅せる一冊。モノクロの世界も奥深い。フィルムに焼き付いた漆黒の世界をどのように版に焼き付けるか。ここでもサンエムの印刷技術をごらん頂けます。」と綴っている。白と黒、そして赤の世界を堪能していただきたい一冊である。