ヴァレリー・フィリップス写真集

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Valerie Phillips,(ヴァレリー・フィリップス)「Another Girl Another Planet」DU Books(ディスクユニオンの出版部門)、2016年。英語版はRizzoli International Publications(NewYork)より出版。

ヴァレリー・フィリップスはニューヨーク生まれ、パンクとスケートボードに熱狂するティーンエイジをニューヨークで過ごす。クラスメイトや家族など身近な人々を独学で覚えたカメラで撮り始める。自由な創作活動を求めてロンドンに移り現在はロンドンを拠点に世界各国で活動している。ミュージシャンの PJ HarveyやManic Street Preachers,などとの作品制作や、メジャーファッション雑誌の「NYLON」「Teen VOGUE」「Dazed」などへの写真提供などメディアへの露出も多い。2001年に最初の自費出版作品集「I Want to be an Astronaut」(Longer Moon Farther、2001年)を刊行して以来、自身の作品発表のベースをzineと位置付けて、ルックスの強いティーン(あるいはティーンに見える)をモデルに据えて、モデル自身のアイデンティティーにフォーカスを当てた写真を発表している。多くの女性写真家に影響を与えるとともに、日本を始めとする世界中にファンが多い。本書には有名・無名にかかわらず70人以上のモデルが登場するが、作家がこれまでに撮影した作品の中から作家自身が選ぶベストなセレクションになっている。タイトルはポストパンクバンド「The Only Ones」の曲から採っている。

ハシシ・パク写真集

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Hasisi Park(ハシシ・パク)「Hasisi Park」Pogo Books(Berlin)#002、2010年。

ハシシ・パクは韓国生まれの写真家であり映像作家、現在はソウルを拠点に活動している。本名はパク・ウォンジ(Park Wonji 박원지)、ハシシと名乗るのは17歳で高校を中退し旅に出たインドで自ら名付けたものだと言う。写真家である父のモデルになることも多く自身も写真家の道に進む。プライベートでは2015年に俳優のポン・テギュ(Bong Taekyu. 봉태규)と結婚をして現在は2児の母である。本作はドイツの出版社PogoBooksから出版されているが#002と比較的に初期に製作されたフォトZineである。

大阪の本屋さんLVDB BOOKSの紹介文には「ポートフォリオ『Picnic Seoul』『USA』とアパレルブランド『The Centaur』のフォトシューティング等から構成されたHasisi Parkの初期作品」とある。大きめのコートのフードをすっぽりと被り、大きな手提げカバンを両肩に通して背負っている人物にライトアップした表紙が印象的である。見開きの写真で対になっているような表現や、韓国とアメリカとの違いを表現している写真もどことなく風刺が効いているようで面白い。本書にはタイトルはなくあるとしたら「Hasisi Park」とだけある。今後どういう活動をするかはわからないが、写真集と言うカテゴリーでの表現があるのなら期待したい。

Hasisi Park
https://www.hasisipark.com/
LVDB BOOKS
https://lvdbbooks.tumblr.com/

北田瑞絵写真集

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北田瑞絵 Mizue Kitada「一枚皮だからな、我々は。」塩竈フォトフェスティバル、2017年。

北田さんは1991年和歌山生まれ、和歌山在住の写真家である。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラフィコース卒業。2014年「第11回 写真1_WALL」ファイナリスト。2016年「塩竈フォトフェスティバル」写真大賞受賞。本作はその副賞として制作された。アートディレクションはタキ加奈子(soda design)さん、編集は菊田樹子さん。

ゴム製の白い大きなバッテンをギュッと引っ張るが力の入れ方がよくわからなくて俄然あたふたする。和歌山の多くの場所(主に作家の生活空間に近い場所)で撮られた写真には、他にはない光の濃さのようなものが満ち溢れている。ページをめくる内に次第に臨場感や追体験を味わうような感覚になり、分け隔てのない暮らしや生命のサイクルの中に放り込まれたようで何らかの特別な使命感に包まれてくるようだ。ただ最後にまたあの大きなゴムをかける段になってどうやって元に戻すべきだったかとはたと悩む。そうかこういうことかと思う頃にはデザイナーの思うツボにはまっているのかも知れない。皮をむかないと見れない写真集なのである。本文に北田さんのメッセージがあるので後半だけ紹介したい。

「犬と過ごす生活のなかで、家業の農作業を手伝うなかで、私のために裸になってくれている女の子たちと時を共にするなかで、人や自然との向き合い方が変わっていき、命について考える時間が自然と増えた。自分が本当に撮っているものは何なんだろうと考えるようになった。ヌードを通して視るものは“性”から“生”になり、彼女たちを通して命を視るようになった。今、女の子も犬もみかんも植物もみんな、一枚皮をまとった命だと考えています。ここにある写真には統一性がない色々な被写体が写っているように見えるかもしれませんがすべてが私の日常のなかにある命です。」

中藤毅彦写真集

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中藤毅彦 Takehiko Nakafuji「Winterlicht」ワイズ出版、2001年。

中藤さんは1970年東京生まれ。早稲田大学第一文学部中退。東京ビジュアルアーツ写真学科卒業。 2000年より5年間同校の非常勤講師を務める。2001年より四谷三丁目にて自主ギャラリーGallery Niepce(ギャラリー・ニエプス)を運営。2013年 「Sakuan.Matapaan-Hokkaido」(禅フォトギャラリー)で第29回写真の町東川賞特別作家賞受賞。2015年「STREET RAMBLER」(ギャラリー・ニエプス)で第24回林忠彦賞受賞。

本書は、2001年に写真専門の出版社である蒼穹舎の大田通貴さんプロデュースにより刊行された二冊目の写真集である。

東ヨーロッパの旧社会主義国家の街、ベルリン、ワルシャワ、グダニスク、プラハ、ブダペスト、ブカレストを1997年から2001年にかけて周り、街の風景や人々の様子をモノクロ写真で捉えている。斜めから差し込む弱々しい日の光に映し出される街並みや、陽があたり次第に水蒸気が立ち込める朝の風景、話す人、じっと口を閉ざすコートの人々、壁、凍り付く川、戦闘機や大砲などの何かしらの記号的なものたち。ベルリンの壁崩壊から数年後。あたりまえの日常を過ごす人々の様子を確かに伝えている。タイトルの「Winterlicht」はドイツ語で「冬の光」を意味する。デザインは秋山伸さん。ざらっとした粒子の荒い写真だが独特の色の紙質とどことなく艶やかな印刷が特徴的な写真集である。

ジョック・スタージェス写真集

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Jock Sturges(ジョック・スタージェス)「The Last Day of Summer」Aperture(NewYork)、1991年。

ジョック・スタージェスは1947年ニューヨーク生まれ。マールボロ大学(Marlboro College)やサンフランシスコ芸術研究所(San Francisco Art Institute)で写真や知覚心理学を学ぶ。本書はニューヨークを拠点に写真集や雑誌を出版し、近年はデジタルコンテンツの配信にも力を入れている写真財団Aperture(アパチャー)から出版された。1980年代から90年代にかけて北カルフォルニアやフランスMontalivetのビーチや自然の中で過ごすナチュラリストである自身の母親や娘、友人家族や子供たちを捉えたポートレートである。ゆったりとした8×10サイズのカメラで撮られた肌理の細かいモノクローム写真には、一夏を過ごす人々のおだやかな時間が捉えられている。無表情のまま真っ直ぐにこちらを見つめる視線、無防備に重なり眠る静かなまでの浜辺の情景はある意味啓示的で、帰る場所を見失った天使たちのような雰囲気である。子供のヌード表現もあったため、1990年にFBIにより児童ポルノ法違反としてスタジオ内のネガや作品が押収される事件となったがその後不起訴となった。この事件は当局による表現の弾圧であると当時アメリカで大きく取り上げられ市民、作家、メディアなどを巻き込んだ一大論争となった。本書はその翌年の1991年に出版されたが、論争は現在でも静かに続いているのは事実である。