池野詩織写真集

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池野詩織 Shiori Ikeno「オーヴ / Orb」commune Press(東京)、2018年。

池野さんは東京生まれの写真家である。2012年明治学院大学在学中より写真を始め、主にフィルムカメラで撮影する。同年11月より写真家の花代さんのアシスタントを務める傍ら、同い年の松藤美里さんとのユニット「BOMB COOLER」(ボンクラ)を結成、2014年には「おたがいの写真展〜彼氏編〜」(Voild 中目黒)を開催している。日本のバンドどついたるねんのビジュアル写真集「My Best Friend」(Space Shower Books、2013年)への参加や、USバンドMean Jeanと日本のバンドGezanとThe Guaysのライブツアー「胸ジンツアー」を記録した「Bubble Bleu」(KiliKiliVilla、2015年)に携わり、近年ではあいみょんのシングル「今夜このまま」(2018年)のジャケット写真なども手掛けている。また「シブカル祭」(渋谷パルコ、2015年)のメインビジュアルへの写真提供や、Tokyo Art Book FairのオープニングDJを務めるなど、幅広いジャンルで活動している。

本書は2018年9月の「NY Art Book Fair 2018」にてリリースした自身初めてのハードカバーによる写真集であり、同名展示会を東京(gallery commune)、名古屋(on reading)、大阪(pulp)で開催した。最近では2019年7月神田テラススクエアで新作「stay, runaway」を展示している。

タイトルについては「今の私の集大成。一度まとめることで区切りをつけたいと考えました。オーヴとは、球体を意味する〈Orb〉、心霊的な意味を持つ写真用語の玉響現象〈オーブ〉、響きの似ているLOVE(ラヴ)などをあわせた造語です。意図しないものや現象、あるいは目に見えない感情が映り込んでいるのが面白く、SFテイストのものをセレクトしました」と語っている。これまでに多くのzineを発表しているがどれも面白い。もしかしたら池野さんの写真のベースにはどれだけ自分が面白いかがベースになっているかも知れない。

沢渡朔写真集

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沢渡朔 Hajime Sawatari「hysteric Ten / Sawatari Hajime」Hysteric Glamour、2004年。

沢渡さんは1940年東京生まれ、東京在住の写真家である。中学の修学旅行の際に手に入れた中古のリコーフレックスで写真を撮り始める。日本大学第二高等学校時代は写真部に所属、カメラ雑誌の月例コンテストの常連となる。日本大学芸術学部写真学科に進学後は「カメラ毎日」「女性自身」などに作品を発表し始め、篠山紀信(以下敬称略)と大学の廊下で2人展(1960年)を開催。その頃白石かずこや寺山修司と出会う。大学卒業後は日本デザインセンターに入社(深瀬昌久、高梨豊、有田泰而、横尾忠則と出会う)高梨豊のアシスタントを務めた後、1966年にフリーとなる。その後ファッション写真を撮る一方、イギリスの少女モデル、サマンサ・ゲイツを撮影した「少女アリス」(河出書房新社、1973年)や、イタリア人モデル、ナディア・ガッリィを撮影した「nadia 森の人形館」(毎日新聞社、1973年)などテーマ性の強い作品を発表し注目される。現在も女性ポートレートの分野を中心に幅広く活躍している。1963年日本広告写真家協会(APA)奨励賞受賞、1973年日本写真協会年度賞、1979年講談社出版文化賞写真賞を受賞。主な写真集に「昭和 伊佐山ひろ子」(宝島社、1994年)「なぎさホテル」(SUPER LABO、2015年)、「Rain」(国書刊行会、2016年)等がある。

本書はファッションブランド・ヒステリックグラマーが刊行する写真集シリーズの第10弾として刊行された。ノスタルジックな集合住宅の廃屋を舞台に、官能的なモデル森月未向(ミサキ)と蛸(タコ)が作り出す耽美な世界観が紙面に充満している。独特の色合いを持つ紙にモノクロ写真が映える。クロス装ハードカバー上にプラスティックカバーと充実の造本である。編集制作に綿谷修さんと大田通貴(蒼穹舎)さんが担当、デザインを原耕一さんが務めている。

ダフィー・ハガイ写真集

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Dafy Hagai (ダフィー・ハガイ)「Golden Showers」Perimeter Editions/Melbourne, Australia、2016年。

ダフィー・ハガイはイスラエル出身の写真家である。学生時代にビジュアルコミュニケーションズデザインの学士号を取得し、主にビデオプロジェクトに取り組む傍ら、アナログ写真に興味を持ち始め、35mmのフィルムカメラや中判カメラで撮影を始める。現在はテルアビブを始めニューヨークやロンドンを拠点に、Vogue、Vice、Dazedなどに作品を寄稿している。

これまでに本書を含む4冊のzineを刊行し、Petra Collinsが責任編集する「Babe」(prestel・NY、2015年)にも作品を提供しているが、とりわけ本書に描かれている女性は自由奔放である。イスラエルの郊外にたむろする若い女の子達を捉え、若々しい生意気さとアメリカナイズされたイスラエル女性を表現した「Israeli Girls」(Art Paper Editions、2014年)の彼女達とはまた違った、悪びれることもなく社会的規範からも制約されることのない、直感的なセクシュアリティや生々しさを感じることが出来る作品となっている。この独特な視線を再認識させ、新たな女性の表現を喚起した根底にはDafyの持つ社会通念への批判的な眼差しや、何かしらの挑戦があるのだろうと思える。

DAFY HAGAI
http://www.dafyhagai.com/

杜釓𣽊写真集

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杜釓𣽊 (To Ka Chun, Standsfield/スタンズフィールド・トー)「The Dark Soul」Self-published、2019年)

スタンズフィールド・トー は、1976年香港生まれ、香港在住の写真家である。大学ではインテリアデザインを学ぶが卒業後独学で写真を覚え、街拍攝影師(ストリート写真家)を始める。日本の写真家木村伊兵衛や森山大道を敬愛し、マキナ67WやGR21、Lomo LC-A 120 などのフィルムカメラを用い、主にモノクロで撮影をする。写真集はこれまでに3冊刊行しているが、いずれも100部限定のSelf-publishとなっている。2014年に最初の個展「 Life Moment 『 瞬 』( UA City Plaza.Hong Kong)を開催、2017年には台北国際写真芸術交流展に「Mandala」を出展、同年大阪で開催された「Unknown Asia 2017 」にも出展している。

写真集によって街の切り取り方が違うのは、使われた機材が違うからのようだが、いずれもその当時の香港の様子を今に伝えている。中でも最新作の「The Dark Soul」では、極力人を排除した絵作り(あるいは抽象的な表現としての人、もしくは人の存在を感じさせる何か)で、香港の持つ複雑な社会状況による混乱や不安感、未来像を描けない人々の失望や孤独を表現している。「Watch stealthily」(2013年)に見るような街を一瞬で切り取ったような爽快さや、表面上に見る街の風景の面白さ、「Life Moment 『瞬』」(2015年)に見る人を中心としたポートレート的表現は一切見られない。すべてが過ぎ去ってしまったような街を見ているようで、自己の内面世界に向けての表現に特化しているようである。ちなみに本書には写真家の瀬戸正人さんが序文を寄せている。

To Ka Chun, Standsfield ホームページ
http://www.tokachun.hk/

成田舞写真集

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成田舞 Mai Narita「ヨウルのラップ (A Wrap of Youru」リトルモア、2011年。

成田さんは東京生まれ山形育ち、現在は京都を拠点に活動する写真家である。京都造形芸術大学情報デザイン学科で写真を学ぶ。2009年「ヨウルのラップ」にて第2回littlemoreBCCKS写真集公募展大賞と川内倫子賞を受賞。2010年同展受賞作品展覧会(VACANT、東京)を開催。本書は大賞受賞作として翌年リトルモアより出版された。2018年坂田佐武郎氏とともにグラフィックデザインや写真撮影を行う法人「株式会社ねき(Neki inc.)」を創業。最近では2020年2月にグループ展「境界線を遡行する」(VOU、京都市下京区)に参加し、自身の出産に起源をもつ2つのスライドショー「slideshow she」「slideshow he」と、300ページにも及ぶ写真集「skin separates secret」からなる展示を行った。 2011年4月、当時写真集刊行に伴いウェブギャラリー「Space Cadet」のインタビューに答えて「ヨウルのラップに関しては、物語みたいなものをにおわせたいなという気持ちがあって。1990年代、それこそ自分が中学生だったくらいの現代神話、日本昔ばなしみたいなものを作りたくて。もしもまだ、もののけがいて変な超常現象が起こるとしたら…とか、現代の神様や闇から出てくる妖怪なんかが居るとしたらそれは一体どんなだろうと想像しながら作りました。」と語っている。

ふとした日常の風景の中に現れた何かしらの符号(しるし)のような景色を作家自身の視線で丁寧に切り取っている。あたかもそれが昔話や神話のような世界への入り口なのだとしたら、我々が暮らすこの世界はなんと多面的で複合的であると言わなくてならない。もしかしたらそもそも自分が見ている世界は他人のそれとは全く違うのではないかと思えるほど、この世界は曖昧なものであると教えられているようである。非常に不穏だが見れば見るほどますます作家の世界観にはまり込んでいくようで、踏み込まなくてはいられない人間の根本的な潜在意識や本能のようなものを考えずにはいられない。B5変形サイズ。断ち切りの写真とそうでない不均一な白場が残る写真が並ぶデザインが秀逸である。造本は松本弦人さん。

ウェブギャラリーSPACE CADETインタビュー
http://spacecadet.jp/interview/narita.html